吹雪の夜、城下で“迷子の旅商人”をまかないで救え!
晩餐会の帰り道。
霜の国の城下を抜けるころ、外は突然の猛吹雪になった。
「……視界ゼロやな」
「ソラ、こっち! 道標が完全に埋まってる!」
雪をかき分けて進むと、
氷壁の陰で、ひとりうずくまる人影を見つけた。
「おい、大丈夫か!」
倒れていたのは、中年の旅商人。
外套は凍りつき、手足はほとんど感覚がないようだった。
「……迷って……何日か……食べてない……」
城下までは近いが、この吹雪の中では搬送が難しい。
「ここで何か食わせて、体力回復させるしかないな」
ソラは周囲を見渡し、吹雪を避けられる小屋跡に避難。
ルナが結界で風雪を遮り、バスが熱石を準備する。
「ミナ、食材庫の残り物バッグ! 何がある!?」
「雪根菜、乾燥藻、干し肉少々、香草……あとは昨日の銀氷魚の端っこや!」
「よし、“命をつなぐ鍋”だ」
作ったのは、
雪根菜と干し肉の滋養スープ。
干し肉の塩気と旨味を溶かし、
香草で香りを立て、根菜の甘みで優しさを足す。
魚の端切れは細かくほぐして、出汁を厚くした。
スープを口にした旅商人は、
最初は震える手で、次には一気にすすり込み――
「……生き返る……」
頬に赤みが戻るのを確認し、ソラは安堵の息をつく。
「……ありがとう。
私は、エルド=ラステ商会の支部長でね。
命を救われた借りは、大きい」
ルナが驚いて目を見開く。
「エルド=ラステ商会って……大陸最大の流通網を持つ、あの!?」
商人は笑った。
「君たちの料理は、命をつないだ。
なら、私はその料理を運ぶ道を作ろうじゃないか」
吹雪がやむころ、旅商人はしっかりと立ち上がっていた。
「次に会う時は、必ず正式に依頼する。
“世界中に届けたい味”としてね」
魔王様が小声でソラに囁く。
「……大会優勝の副賞より、こっちの方が大きいかもしれないわよ」




