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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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雪の国の晩餐会! まかない部、王宮厨房に招かれる

冬祭りから一夜明け――

 まかない部は霜の国王宮へ招かれた。


 


「国王陛下直々の招待、光栄に存じます」


「うむ。昨日の屋台の評判は宮廷にも届いた。

 ぜひ我が晩餐会でも腕を振るってほしい」


 


 そう言われ、案内された宮廷厨房は――

 整然、静寂、無駄のない配置。

 金や銀の器具が光り、食材は整形済みで寸分の狂いもない。


 


「……見た目は完璧やなあ」


「なのに、なんでだろ。ここ、すごく……冷たい感じがする」


 


 魔王様がぽつりと言った。


「ここは火があるのに、温度がないわね」


 


 実際、宮廷料理人たちの手は機械のように正確だが、

 表情は硬く、会話もない。

 調理場に漂うのは、効率と規律の香りだけ。


 


 その夜の晩餐会は、

 見目麗しい料理が次々と並んだが――


「……美しいが、口に残らないな」


「温かいはずなのに、心は温まらん……」


 


 国王も眉をひそめる。


 


 そこで魔王様が立ち上がった。


「陛下。少しだけ、この厨房をお借りします」


 


 ソラたちに指示が飛ぶ。


「ルナ、倉庫から残り物を。

 ミナ、火口を二つあけて。

 バス、熱石を低温で維持して。

 リドは皿じゃなく大鍋を用意」


 


 作ったのは、

 雪根菜と銀氷魚の寄せ鍋。


 下処理は最低限、食材は大きめに切り、

 鍋の中心に香草を束ねて香りを広げる。

 具材を突きながら談笑できるよう、大皿ごと提供。


 


 宮廷の晩餐会場に、ふわりと立ち上る湯気。

 椀を手に取った人々が、自然に席を移動し、

 知らぬ者同士が向かい合う。


 


「……うまいな。魚の旨味が染みて……」


「お前、もっと入れろよ」


「はは、じゃあそっちの根菜ももらうわ」


 


 場が笑いで満ちていく。

 国王も、匙を置いて小さく頷いた。


 


「……これだな。

 宮廷に足りなかったのは、この温もりの共有だ」


 


 晩餐後、宮廷料理長がソラに近づき、

 真剣な眼差しで言った。


「……恥ずかしながら、我々は“客の心を温める”ことを忘れていました。

 この国の厨房に、また来てくれませんか」


 


 ソラは笑って答える。


「まかない部は呼ばれればどこでも行きますよ。

 ――飯で、人を温めるために」


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