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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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まかない部、初の出張!? 霜の国で“氷上屋台”を開く!

 霜のセネスタ――

 魔王城から北へ三日の旅路を経て、まかない部は到着した。


 目の前に広がるのは、

 一面の氷湖。

 その上に、冬祭り用の仮設屋台が立ち並んでいる。


 


「……寒っぶぅぅぅ!!」


「ソラ、顔がもう凍ってる」


「ミナ……お前の吐息も氷の粒になってるぞ」


「おお、綺麗やなあ……ちゃう! 調理これ無理やろ!」


 


 今回の任務は、霜の国の冬祭りでの出張調理。

 条件は――

1.屋台は氷上に設置(火力は氷を溶かさない範囲)

2.現地食材を使う

3.魔力使用は氷湖保全のため最低限


 


 バスが火魔法を点火した瞬間。


「……あれ、火、弱くない?」


「いや……凍った」


「は?」


「火が……凍った」


「そんな物理現象あってたまるか!」


 


 霜の国特有の冷気精霊の干渉で、

 炎の温度が強制的に下がる現象が発生していた。


 


「こうなったら……加熱じゃなく、冷たいまま旨くする料理で勝負するしかない」


「冷たいままで旨い……?」


 


 現地食材を調べると、

 氷湖で獲れる“銀氷魚”と、

 雪畑で採れる“白根菜”が豊富だった。


 


 ソラは即座に方針を決定。


「銀氷魚は身が柔らかいから、氷の上で薄切りにして、

 白根菜を薄く削って合わせる。

 旨味は塩藻ペーストと、湖面の雪結晶水で引き出す!」


 


 ルナが魔力で瞬間的に素材温度を均一化、

 ミナが風魔法で香りを全体に拡散、

 バスが極小火力でペーストを温めすぎず作り、

 リドが盛り付けを整える。


 


 屋台の前に並んだ客が、一口――


 


「……冷たいのに、口の中で温かく感じる……」


「甘い……魚なのに、花の蜜みたいな香りがする」


 


 祭り客の反応は上々。

 だが、隣の屋台で見ていた地元の料理人は、腕を組んで首を振った。


 


「旨い。だが、霜の国の真髄は“温かいもの”だ。

 火を通せないなら、この地の心は掴めん」


 


 ソラは黙って、地元の料理人の屋台を覗く。

 そこには、炎ではなく熱石を使った調理器があった。


 


「……借りていいですか?」


 


 熱石は地熱を吸い上げる特殊鉱石。

 冷気精霊の干渉を受けず、一定の温度を保てる。


 


 その熱石で、銀氷魚の骨出汁を温め、

 白根菜と合わせた熱々の雪解けスープを作る。


 


 湯気の立つその一杯は、

 外気の氷点下と正反対のぬくもりを、

 客の心と体に届けた。


 


「……ああ……やっぱ、これだな……」


「この温かさが、冬を越す力になる」


 


 祭りの終わり、地元料理人は笑って手を差し出した。


 


「異国の者よ。お前ら、ちゃんとこの国の味を作ったな」


「また来ます。その時は一緒に屋台並べましょう」


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