外交官、魔王城に来る! 料理を巡る“国際交渉”始まる!?
魔王城に、使節団がやってきた。
公式な目的は、
「クロス・ディッシュ杯優勝者との意見交換および食文化交流」。
だが、実際のところ――
「この料理を外交ツールとして正式採用したい、ってことですね」
「はい。我が国でも、**“戦の代わりに食を交わせ”という機運が高まっておりまして」
来訪者は、“霜の国”の第一使節、
ディリス・バルヴァイン卿。
温厚そうな見た目に反して、
王国との交易交渉では8日で12項目をひっくり返した猛者。
「つまり……料理で“条約を丸くする”ってことか。
……えげつねえ発想だな」
「交渉をまろやかにするソース的な……?」
「ソースは万能やからな。外交も味つけが大事や」
対応を任されたのは――
•ソラ(味の責任者)
•ルナ(言語魔術師&通訳)
•魔王様(総監修・でも基本黙ってる)
ディリス卿は最初からにこにこしていた。
「では、まずは一皿、いただきましょうか。
“一口で国境を越えたくなる料理”、楽しみにしております」
ソラが出したのは、
【温花の粥 ~焦がし蜜葉と香草香る~】。
華やかに咲いた食用花と、香草の苦みを利かせた甘塩粥。
口当たりは優しく、あとから“ほのかな攻め”が追いかけてくる構成。
ディリス卿は、一口食べて、ふっと笑った。
「これは……**“おとなしく見せて、ちゃんと主張する味”**ですね。
まるで、うちの外交文書のようだ」
「……絶対に褒めてないですよねそれ」
「褒めてますよ。料理も交渉も、“ひと匙の余白”が大事ですから」
だが交渉席では順調な雰囲気の裏で――
厨房はてんやわんやだった。
「ミナーーっ!! にんじん爆発してるぅぅ!!」
「これ! 新型にんじん“紅雷種”だから! 火入れミスると雷素出すの!」
「鍋ふっとんだーーー!!!」
「バス、魔力コンロ止めて! 今すぐ!」
「やってるけどこいつ鼓動してるぅぅうう!!?」
――結局、ディリス卿は、会談の合間に厨房を訪れ、
煙の中のバスとミナを見て笑いながら言った。
「……やはり厨房というのは、国家の縮図ですね」
「それ……今も褒めてるんですか?」
「もちろん。混乱こそ、**“生命力のある現場”**ですよ」
最終的に、霜の国との“食文化協定案”は成立した。
内容はシンプル。
まかない部が年に一度、他国へ料理を振る舞いに行くというもの。
「ソラくん。君の料理は、国を変えるとは思わない。
でも、“国と人の間”に、笑える余白を作ってくれるとは思うよ」
魔王様がぽつりと呟く。
「……誰かの余白になる料理。いいわね、それ」
こうして、魔王城まかない部は、
**“食を通じた外交使節”**としての第一歩を踏み出したのだった。




