魔王城に帰還! ただいま、と言える厨房がある幸せ
クロス・ディッシュ杯の熱狂と歓声を背に、
まかない部はようやく魔王城に帰ってきた。
「……は~~~~、落ち着く……!」
「椅子がちょっと硬いのも、レンジ魔導炉の温度ムラも……全部懐かしいわ」
「鍋が勝手に動いてこけるのも“仕様”やしな」
大会中は、最新鋭の魔導厨房だった。
だが、この魔王城のちょっとクセのある厨房こそが、みんなの居場所だった。
ソラは、いつもの調理台の前に立って、深呼吸する。
「よし、今日は“優勝祝いまかない”だ!」
「メニューは?」
「あるもので作る。それがまかないだからな!」
ミナが火力を準備し、
ルナは魔力濾過器をメンテナンス。
リドとバスは食材庫を開き、次々と食材を並べていく。
そんな中、魔王様は――なぜか厨房の隅で、こそこそと何かしていた。
「……あれ、魔王様、何してるの?」
「……べ、べつに……ちょっと甘味の試作をしてるだけよ」
「甘味!? 魔王様が!?」
「え、なに、毒味要員いる!?」
「いないわよ!? これは純粋に“慰労スイーツ”! 甘くて安心する系!」
魔王様が作っていたのは、
《黒花樹蜜の焦がしプリン・黒塩仕立て》。
焦げの苦味と塩味で、甘さを引き立てた大人向けスイーツ。
だが――
「な、なんかプリンが……跳ねた!?」
「魔力が不安定で固まってないーっ!?」
「どろどろの液体が厨房を襲ってるーっ!」
厨房は騒然となるが、
最後には魔王様の顔にも、久々に本気の笑顔が浮かんでいた。
「……ふふ。やっぱり、うちの厨房は、こうじゃなくちゃね」
その夜、まかない部は城の大広間で優勝祝賀会を開いた。
料理はすべて“まかない形式”。
豪華ではないが、どれもが**「心が満たされる味」**だった。
ソラが皿を片付けながらつぶやく。
「……大会もすごかったけど……
やっぱ、この飯が一番うまいな」
魔王様も隣で同じように呟いた。
「そうね。私たちが作った、“私たちの味”だもの」




