決勝戦開幕! 最後の対戦相手は、“料理しない料理人”!?
クロス・ディッシュ杯、決勝戦。
魔王城まかない部が会場に到着すると、そこは異様な空気に包まれていた。
「……観客、みんな静かすぎない?」
「なんやろな。
緊張というより、“悟ってる”感じや……」
相手チーム《無皿の厨房》。
決勝まで一度も料理らしい料理をしていない、謎の料理集団。
代表の名は――エルン・カロス。
年齢不詳、性別不詳。
ただ、“目の前の食材から何も作らない”のに、
観客の評価は満点続きという異常事態だった。
エルンは、淡々と語った。
「私たちは、料理をしません。
私たちは、素材に触れるだけで、“満たされた気持ち”を伝えるのです」
「それ、もはや料理というより催眠では……?」
「けれど、事実として皆が満足して帰っている。
食材は減らず、胃袋も膨れていないのに、心が満たされる。
――それは、“最も無駄のない料理”では?」
テーマが発表される。
【テーマ:最後に食べたいひと皿】
観客席からどよめきが起きた。
このテーマの意味は明確だった。
“命の最後に、何を口にしたいか”――。
魔王様は静かに言った。
「……このテーマ、エルンのためにあるみたいね」
「でもそれなら、俺たちは“ちゃんと作る”よ。
料理って、手をかけるものだろ?」
ソラが提案した料理は、
かつて魔王様が一度だけ焼き、ソラが再現した――あの**“記憶のスープ”**。
今回はさらに、まかない部全員の技術が加わった進化版。
・リドの素材処理技術で旨味を最大限に抽出
・ミーレンの味覚分析で感情に刺さる味を調整
・ルナが魔力調律で“食後の余韻”を調整
・ミナの火入れで香りを包み込む
・バスの火力で香ばしさを閉じ込め
・ソラがすべてを繋いで、一杯のスープに仕上げる
――完成したその皿は、
見た目はただのスープ。
けれど、**誰かの記憶に静かに語りかける“最後のひと匙”**だった。
一方、エルンはただ、素材を観客に見せ、
ゆっくりと手をかざし、語った。
「この野菜が、あなたの記憶に似ています。
あなたは、これを見て、食べたくなるのではなく、“もう十分だ”と感じているはずです」
魔力計が反応し、観客の満足値が上昇。
だが、ソラのスープを口にした観客たちは――
涙をこぼして笑った。
「……ああ、思い出した。
私、誰かと食べたかったんだ」
「食べないことじゃなく、
誰かと分かち合いたかったんだって、今わかった……」
無の満足よりも、
誰かと食べることで満たされる喜びが、会場に満ちていく。
最終得点:
《無皿の厨房》:98点
《魔王城まかない部》:100点
優勝:魔王城まかない部
エルンは、静かに微笑んだ。
「あなたたちは、“無に勝った”わけではない。
人と生きる味を、選んだのです。
……それは、きっと最も尊い料理」
大会はこうして幕を閉じた。
しかし、これは終わりではない。
魔王様の料理は、新たな注目を集め、
まかない部には、他国からの視察依頼や共同開発の打診が殺到する。
「さあ、明日からが本番よ。
まかない部はまだまだ、世界を“おいしく”する途中なんだから」




