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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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風の帰還

光の世界が静かにほどけていくと、

 現実の空気が、ふわりと影――

 いや、“新しい風”を包んだ。


 かつて黒く荒れ狂っていた暴風はもうない。

 代わりに広場には、

 柔らかい光と透明な風が満ちていた。


 その中心に、灰の風を纏った存在が静かに立っていた。


 


 ――影が、帰ってきた。


 


 まかない部の四人は、

 その姿をただ黙って見つめていた。


 恐れや緊張はない。

 そこにあるのは驚きと安堵、

 そして、言葉にならない温かさだった。



静かに踏み出す「新しい風」


 新しい風はそっと一歩前に出た。

 その動きは人にも似て、

 風にも似ていて、

 どこか儀式の余韻をまとっていた。


 胸の中心には風の光。

 その周りには、黒霧が優しい色に変わった

 淡い灰の揺らぎ。


 かつての影の鋭さは完全に消え、

 風のように柔らかくなっている。


 アリアがゆっくり近づいた。


 


「……帰ってきたんだね」


 


 その言葉に、

 新しい風は静かに首を垂れた。


 


「……私は……戻った。

 あなたたちの声が……

 この胸の光を、導いてくれた……」


 


 声は細く穏やかで、

 風に揺れる草のような響きを持っていた。



まかない部との“温かな再会”


 ルナが目を潤ませ、そっと言った。

「あなた……優しい風の顔してるよ……」


 新しい風は驚いたように胸の光に触れる。

「……私は……変われたのだろうか……?」


 ソラが腕を組んで頷く。

「変わったんやなくて……

 本来の自分を取り戻した、いうことや」


 ミナは肩の力を抜き、軽く笑った。

「せや、影でも風でもええねん。

 あんたは“あんた自身”でええんやで」


 新しい風は四人から受け取る気持ちを

 一つひとつ胸の光に吸い込むように

 静かに聞き入っていた。


 


「……ありがとう……

 あなたたちが……

 私を……ここへ戻してくれた……」


 


 風がふっと流れ、

 広場の破れかけた旗が優しく揺れた。


 荒れていた都の気配が、

 まるで息を吹き返したかのように

 穏やかさを取り戻していく。



戻ってきた“風”の温かさ


 まかない部の四人は、

 影ではなく“新しい風”の存在を

 自然に受け止めていた。


 アリアは誓いの布を胸に抱えたまま、

 そっと新しい風へ向けて言う。


「あなたが帰ってきてくれて……本当にうれしい。

 心配してたんだよ……ずっと」


 新しい風は

 風の揺らぎのような笑みを浮かべた。


 


「……あなたの声が……

 門を開いたときの、光だった……

 私は……ずっと怖かったが……

 あなたの声だけは……消えなかった……」


 


 ルナが静かに息を吸った。

「もう怖がらなくていいんだよ……

 私たち、ここにいるから」


 ソラも言葉を添える。

「帰る場所がある。それでええ」


 ミナは軽く背を叩く仕草をしながら、

 やわらかい笑顔を見せた。

「ほな、これからどうしよっか。

 風のあんたが一緒なら、なんか心強いやんか」


 


 新しい風の身体が、

 光を帯びて静かに揺れた。


 


「……共に歩ませてほしい……

 私は……世界を見たい……

 風として……

 あなたたちと……」


 


 その願いの響きは、

 小さな子どもが未来を語るような

 まっすぐで、弱くて、温かい音だった。



結び:風が寄り添う、静かな広場


 都の広場には、

 崩れた石の上を優しく撫でる風が流れた。


 影でもなく、

 古い風でもなく、

 新たな道を選んだ“ひとつの風”。


 その風は、

 まかない部の四人の周りをそっと巡り、

 やがて静かに寄り添う形へ戻った。


 こうして――

 再生した風とまかない部の

 静かな再会の場は、

 優しい風の光とともに幕を閉じた。


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