魔王 vs 国王!? 料理人として、王国代表と正面対決!
大会五日目。
観客の熱気も高まりつつあるクロス・ディッシュ杯。
ついに発表された、次の対戦カードは──
【準準決勝・特別枠】
魔王城まかない部 vs 王国料理団《五指の一皿》
「“五指の一皿”って……王国最高位の料理人五人のことだよね?」
「聞いたことある。
味・構成・魔法・歴史・演出……それぞれの達人で構成された“最強の献立”」
「完全に格上ってこと……!」
対する魔王城サイドも、ついに本気を出す。
「──今回は、私も出るわ」
「えっ、魔王様が!? 出場メンバーに!?」
「ええ。これは、“皿洗いだった頃の私”への、最後の区切りよ」
ソラ、魔王様、ルナ、バス、リド──
いわば“魔王城の核”がそろった陣容で、試合に臨む。
一方、王国サイドの代表たちが登場。
かつて魔王様が働いていた厨房の料理長、カルヴァン・シェイドもその中にいた。
「ようやく顔を出す気になったか……“下働きの少女”よ。
だが、料理人は肩書きじゃなく、皿で語れ」
「そのつもりよ、“元雇い主”さん」
会場がざわめく。
王国側も観客も、“彼女がかつて自国で働いていた”ことを知り、色めき立つ。
テーマが発表される。
【テーマ:国境のない献立】
「……なんて、魔王城のためにあるようなテーマ……」
「でも、“味の融合”って一番難しい。下手すれば“どっちつかず”になる」
料理開始。
王国側は“伝統の五皿構成”で構える。
それぞれが専門を持ち、強みを前面に出す、まさに組織の料理。
一方の魔王城まかない部は、
ひと皿の中にすべてを込める“混在一品式”。
焦点は──**「違う文化と素材を、どう繋ぐか」**。
メイン素材は、“高地の魔獣肉”と“海底藻の燻しエキス”。
焼きと蒸しの二重工程で火入れを調整し、
香魔草と塩精霊の泡で味の境界をぼかす。
それは、国でも種族でもない、“居場所のない者”の料理だった。
魔王様が最後に一匙、自らのレシピを乗せる。
「これで、過去に“私が出せなかった皿”が、今ここに完成する」
審査。
王国側の献立は、正統・安定・格式。
圧倒的な完成度と伝統の味。
観客は拍手喝采。
そして魔王城のひと皿。
最初は、静かだった。
けれど、ひと口食べた観客が、目を閉じて涙をこぼす。
「……この味、なんだ……」
「知らないのに、懐かしい……」
「“国”じゃなくて、“誰かがいた場所”を思い出す……」
魔力装置が反応。
共鳴数値がじわじわと上昇し──
王国代表:95点
魔王城:99点
勝敗が決したとき、
王国料理長・カルヴァンは、魔王様の前に歩み寄り、
静かに頭を下げた。
「……あの頃、お前の料理を、
“ただの余り物で遊んでる”としか思ってなかった。
……だが、あれは芽だった。
今、ようやくわかる。──あの厨房で、俺は“未来”を見逃したんだな」
魔王様は笑った。
「私の過去を、見つけてくれてありがとう。
でも今は、仲間と共に“いまの味”を作ってるの」
勝利と共に、魔王様の過去に一つの終止符が打たれた。




