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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
229/263

核の裂け目

光が走った余波で、

 黒風の渦がわずかに乱れた。


 影は胸元を押さえるように身をかがめ――

 次の瞬間、胸の奥に刻まれた“裂け目”から

 黒の霧があふれ出した。


 アリアが布を胸に抱き、

 裂け目を凝視した。


「……見えてる……

 風の奥に……まだ隠されてる“核”が……」


 ルナが震える声で言う。

「アリア……危ないよ……

 あれ……触れたら……」


 ソラがその言葉を引き取る。

「――影に呑まれる。

 けどあそこが、影の“心臓”や」


 ミナは柄杓を握りしめ、

 その黒い裂け目をまっすぐににらんだ。


「じゃあ……狙わなあかんとこは、ひとつやな」



核の露出


 裂け目がゆっくりと広がる。

 黒い霧の奥から――

 かすかに淡い光が脈打っていた。


 それは暗い闇の中できらめく

 風の心臓のような光だった。


 影は震え、低く呻く。


 


「見るな……

 ここは……私の“始まり”……

 私が……拒絶された証だ……」


 


 黒風がその言葉とともに荒れ狂い、

 裂け目の奥の核を覆おうと蠢く。


 しかし誓いの布の光が再び射し込み、

 黒の煙が一瞬だけ後退した。



激しさを増す攻防


 影は怒りで顔を上げ、

 胸元の裂け目から黒風を噴き上げた。


 黒風の柱が立ち上がり、

 広場の石畳を“真下に押し潰す”ように降り注ぐ。


 兵士のすぐ横の地面が凹み、

 粉塵が暴風に巻き上げられて消えた。


 神官たちも杖を必死に支えながら叫ぶ。

「暴風の濁流が……逆流している……!

 影が風の“流れ”そのものを捻じ曲げている!」


 ソラが叫ぶ。

「あいつ、自分の核を守るために、

 風を逆から流しとるんや!」


 ミナが布の前に立ちながら唸った。

「この風……飲み込む気や……

 広場全部を……!」



布の光、対抗する


 アリアは布を掲げ、

 光を裂け目へ向けて集中させた。


「お願い……!

 風よ……!

 あなたのもう片方の手を……

 見失わないで……!」


 布の光が暴風の奔流に刺さり、

 黒の流れの一部を“切り裂く”。


 裂け目の奥の核が一瞬、

 強い脈動を見せた。


 ルナが叫ぶ。

「いま……!

 光が届いてる!」


 ソラが応じる。

「押せッ!」


 ミナは鍋蓋を盾に暴風へ突き進み、

 影の風の触手を跳ね返した。



影の反撃 ― 逆流する暴風


 影は絶叫する。


 


「やめろォォォォォッ……!!

 私の核に触れるな……!!」


 


 その叫びと同時に――

 暴風が“逆流”した。


 広場全体の風向きが一瞬でひっくり返り、

 建物の残骸が空に打ち上げられ、

 粉塵が白い柱のように昇った。


 布の光も逆流に引きずられそうになる。


 アリアの足が浮く。

 布が手から離れかける。


「――っ……!」


 ミナが叫び、腕を伸ばしてアリアを支えた。

「離したらアカン……!

 布だけは……!」


 ルナも必死に布を押さえ、

 暴風に飲まれるのを防ぐ。


 ソラは風の軌道を読み、

 影の中心へ叫んだ。


「裂け目が広がっとる――!

 押し切れば……影の核が出る!」



最後の光の一閃


 アリアは全身を震わせながら、

 布を胸の高さへ戻した。


「風よ……

 あなたが失った隣人に……

 光を……!」


 誓いの布が、

 ついに限界の光を放つ。


 光が細い一本の槍のように伸び――

 影の胸の“裂け目”へ

 深く突き刺さった。


 


 影の身体が大きく仰け反る。

 裂け目から黒風が噴き出し、

 暴風が一瞬だけ止まる。


 


 ――影の核が、露出した。


 


 淡い風の光が、

 黒い霧の奥で脈動していた。


 それは影が隠し続けてきた

 “風の心臓”

 そのものだった。


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