核の裂け目
光が走った余波で、
黒風の渦がわずかに乱れた。
影は胸元を押さえるように身をかがめ――
次の瞬間、胸の奥に刻まれた“裂け目”から
黒の霧があふれ出した。
アリアが布を胸に抱き、
裂け目を凝視した。
「……見えてる……
風の奥に……まだ隠されてる“核”が……」
ルナが震える声で言う。
「アリア……危ないよ……
あれ……触れたら……」
ソラがその言葉を引き取る。
「――影に呑まれる。
けどあそこが、影の“心臓”や」
ミナは柄杓を握りしめ、
その黒い裂け目をまっすぐににらんだ。
「じゃあ……狙わなあかんとこは、ひとつやな」
⸻
核の露出
裂け目がゆっくりと広がる。
黒い霧の奥から――
かすかに淡い光が脈打っていた。
それは暗い闇の中できらめく
風の心臓のような光だった。
影は震え、低く呻く。
「見るな……
ここは……私の“始まり”……
私が……拒絶された証だ……」
黒風がその言葉とともに荒れ狂い、
裂け目の奥の核を覆おうと蠢く。
しかし誓いの布の光が再び射し込み、
黒の煙が一瞬だけ後退した。
⸻
激しさを増す攻防
影は怒りで顔を上げ、
胸元の裂け目から黒風を噴き上げた。
黒風の柱が立ち上がり、
広場の石畳を“真下に押し潰す”ように降り注ぐ。
兵士のすぐ横の地面が凹み、
粉塵が暴風に巻き上げられて消えた。
神官たちも杖を必死に支えながら叫ぶ。
「暴風の濁流が……逆流している……!
影が風の“流れ”そのものを捻じ曲げている!」
ソラが叫ぶ。
「あいつ、自分の核を守るために、
風を逆から流しとるんや!」
ミナが布の前に立ちながら唸った。
「この風……飲み込む気や……
広場全部を……!」
⸻
布の光、対抗する
アリアは布を掲げ、
光を裂け目へ向けて集中させた。
「お願い……!
風よ……!
あなたのもう片方の手を……
見失わないで……!」
布の光が暴風の奔流に刺さり、
黒の流れの一部を“切り裂く”。
裂け目の奥の核が一瞬、
強い脈動を見せた。
ルナが叫ぶ。
「いま……!
光が届いてる!」
ソラが応じる。
「押せッ!」
ミナは鍋蓋を盾に暴風へ突き進み、
影の風の触手を跳ね返した。
⸻
影の反撃 ― 逆流する暴風
影は絶叫する。
「やめろォォォォォッ……!!
私の核に触れるな……!!」
その叫びと同時に――
暴風が“逆流”した。
広場全体の風向きが一瞬でひっくり返り、
建物の残骸が空に打ち上げられ、
粉塵が白い柱のように昇った。
布の光も逆流に引きずられそうになる。
アリアの足が浮く。
布が手から離れかける。
「――っ……!」
ミナが叫び、腕を伸ばしてアリアを支えた。
「離したらアカン……!
布だけは……!」
ルナも必死に布を押さえ、
暴風に飲まれるのを防ぐ。
ソラは風の軌道を読み、
影の中心へ叫んだ。
「裂け目が広がっとる――!
押し切れば……影の核が出る!」
⸻
最後の光の一閃
アリアは全身を震わせながら、
布を胸の高さへ戻した。
「風よ……
あなたが失った隣人に……
光を……!」
誓いの布が、
ついに限界の光を放つ。
光が細い一本の槍のように伸び――
影の胸の“裂け目”へ
深く突き刺さった。
影の身体が大きく仰け反る。
裂け目から黒風が噴き出し、
暴風が一瞬だけ止まる。
――影の核が、露出した。
淡い風の光が、
黒い霧の奥で脈動していた。
それは影が隠し続けてきた
“風の心臓”
そのものだった。




