国王直々の試食依頼!? 魔王様の正体がバレる前に、時間との勝負!
クロス・ディッシュ杯、四日目。
大会運営本部に、異例の通達が届く。
【王国国王ラオ・フォルニス陛下より通達】
魔王城まかない部の出品料理を、
個人的に試食したい。“代表料理人を伴わず、料理のみ持参せよ”
「な、なんでそんな直々に!? 王様が!? うちに!?」
「……完全に“魔王様の料理”を察知してるな」
料理そのものに反応した者は多かった。
でも、“料理を通じて、その人間を特定する”なんて──
ソラも初めての経験だった。
「でも、魔王様が出て行ったらまずいよな……。王国の兵とかいたら……」
ルナが冷静にまとめた。
「対策としては二択──」
1.魔王様が出向く → 正体バレの危険高
2.魔王様は厨房に残し、代理チームで料理を作る → 再現度の勝負
「時間もないし、再現で行こう」
「お前ら、私の料理を真似できるつもり?」
魔王様はそう言いながら、
少しだけ、微笑んでいた。
「……でも、いいわ。
“私の味”が、あなたたちの手に残っているかどうか、試してごらんなさい」
提出料理は、シンプルな二品構成:
•焼き魔獣肉の香草マリネ
•蕪と根菜のやわらか蒸し・魔風仕立て
見た目は地味、でも奥行きのある香り。
魔王様が厨房にいた頃、下働きの合間に作っていた“隠れ賄い”の再現だ。
ルナが香りを調整し、ソラが火加減を仕上げ、
ミナとミーレンが小技と味見で細部を固める。
そして料理が完成し、魔力保温の箱に詰めて、
代理チームが王国陣営の控え室へ届ける。
……しばらくして、王国陣営から返書が戻ってきた。
【評価】
「たしかに、あの頃の、あの小さな厨房の香りがした。
だが、皿にはもう“誰かの手”が加わっている。
……あれが、今の君たちの料理だとしたら──
次の対戦、楽しみにしている」
──国王 ラオ・フォルニス
「……完全に気づいてるな」
「けど、“告発”じゃなくて、“招待”の文面だよ、これ……」
魔王様は、静かに目を伏せた。
「……ラオ陛下は、私のことなど忘れていると思っていたのに」
「忘れるわけないでしょ。あんな味、普通の人には作れないよ」
国王ラオは、若かりし頃の魔王様が皿洗いをしていた厨房の、
“唯一、味見してくれた客”だった。
その日、ひと匙だけ口に運んで──
「この人は、いつか世界を変える」と言った、数少ない人物だった。
そして次戦、魔王城まかない部はついに、
王国代表チームとぶつかることが決まる。




