次なる対戦は“記憶を味にする料理人”!? 忘れられない一皿を巡る戦い
大会三日目。
クロス・ディッシュ杯・二回戦の会場は、
“味覚劇場”と呼ばれる感情共鳴ステージ。
「ここ、観客席に“感情増幅装置”が組み込まれてるんだって。
料理の味が記憶や感情に作用すれば、その共鳴度がスコア化される」
「つまり、“味の記憶誘導”に長けてる料理人が有利ってわけや」
対戦相手は、
王国出身の料理人──セルノ・ヴィエロ。
記憶の断片を料理に落とし込む、“追憶料理”のスペシャリスト。
登場するなり、彼は淡々と語る。
「この勝負、記憶の深さで決まります。
あなたたち、どこまで“忘れたくない味”を持ってますか?」
テーマ発表:
【テーマ:忘れられない一皿】
ソラは、調理台の前で立ち尽くす。
──忘れられない味……?
家族で囲んだ食卓。
母が作ってくれた、温かいスープ。
けれど、記憶はぼやけていた。
音も、匂いも、曖昧で──
そのとき、魔王様が静かに言った。
「ねえ、ソラ。記憶は、全部思い出せなくていいのよ。
大事なのは、そこに“誰かがいたこと”と、
“そのとき、ちゃんとあった味”」
魔王様は、自分のレシピカードを手渡した。
「これ、皿洗い時代に一度だけ作った料理。
誰にも食べてもらえなかったけど、
私は“あの頃の私”を忘れたくなくて、書き留めておいたの」
ソラはそのカードを見て、調理を始めた。
作るのは、“記憶のスープ・再現風”。
母の味に似せた、野菜とハーブのスープに、
魔王様の“最初の一皿”である焦がし果実ペーストを加える。
それは、過去と過去を重ねた、誰にも真似できない一皿。
一方、対戦相手のセルノが出したのは、
彼の父が亡くなる前に食べた“焼き干し魚の甘煮”。
繊細で美しく、まるで記憶を彫刻したような料理。
試食開始。
セルノの一皿に、観客は懐かしさと悲しさに包まれた。
味覚劇場の魔力装置が反応し、共鳴スコア:92点。
そして、ソラの一皿。
一口、スープを含んだ瞬間──
観客たちは**“何かを思い出せそうで思い出せない”感覚**に囚われる。
でも、心の奥でふっと、小さなぬくもりが灯る。
「……これ……なんの味……? でも、泣きたくなる……」
「名前も知らない……でも、確かに“食べたことがある”気がする……」
魔力装置が共鳴し、スコア:97点。
ソラの料理が勝った。
だが、セルノは静かに笑って言った。
「……負けたけど、不思議と嬉しいよ。
君の料理には、“まだ言葉になっていない記憶”がある」
控室に戻ったソラは、そっとスープの残りを見つめてつぶやいた。
「……あのとき、ちゃんと“味”があったんだな……」
魔王様が言う。
「記憶は消えても、“旨味”は残るのよ。
食べ物って、そういうものだから」




