料理人狙撃事件発生!? ソラ、謎の暗殺依頼に巻き込まれる!
クロス・ディッシュ杯、二日目。
魔王城まかない部は次戦へ向けた準備のため、
大会施設の調理室を借りて試作を行っていた。
「昨日の“火”の印象が強すぎたから、今日は“冷製系”で攻めたいね」
「香り立たせるなら、冷でも“揮発と余韻”のバランスが必要や」
「バスは今日は“火、抑え目”で頼むよ」
「火は……我慢する……!」
そんな折、ルナが手紙を持って現れた。
「これ、控室の扉に挟まってた」
便箋は黒。魔力で封印された、魔界式の決闘状に似た封書。
【警告】
代表料理人・ソラへ
本日中に大会から辞退しろ。
でなければ、“次の皿”が棺になる。
「……え、何この中二病みたいな文面……って、物騒すぎるでしょ!?」
魔王様に報告すると、
意外にも淡々とした反応だった。
「ふぅん。やっぱり出てきたか。
……“料理が外交になる”と困る人たち、いるからね」
大会裏には、“戦争産業で利益を得ている連合”や
“旧体制の貴族層”など、平和を嫌う勢力が存在する。
「彼らからすれば、“料理で国境が融ける”のは……商売敵の出現よ」
「でも暗殺って……料理大会だよ!? 食べ物の祭典だよ!?」
「逆に言えば、“食に刺を混ぜる”のは、プロの手口よ。
気をつけて。今日の試食皿に“刺突魔法”が仕込まれてる可能性があるわ」
そして事件は、実際に起きた。
試作中、ソラが手に取った皿に、
一瞬だけ“空気の歪み”が走った。
「ソラ、避けてっ!」
――ピシィン!!
皿の中央から、透明な針状の魔力が飛び出し、
そのまま厨房の壁に突き刺さる。
「ッ……これ……“無詠唱式・召喚刃”だ!」
「“刺突魔法を食器に封じ込めて、触れた者に発動する”タイプ……」
誰かが意図的に仕込んだ、魔導式の凶器だった。
翌日、大会運営本部に報告され、調査が始まるが──
その夜、ソラはある気配に気づく。
屋上の影から現れたのは、
黒衣に身を包んだ、見覚えのある人物だった。
「……お前は……ルーク!? 王都時代の料理学舎にいた……!」
「よォ、ソラ。相変わらず真面目そうな顔してんな。
でも今度は、“真面目”じゃ守れねえぞ。
これ以上進むなら、今度こそ命を落とす」
ルーク=ファーネル。
かつての料理仲間であり、
魔法料理の応用で“軍需向け”に転向した男。
「なんで暗殺なんかに手を?」
「お前らが、“料理を平和の道具”にしようとしたからだよ。
俺は“戦いの中で人を活かす味”を選んだ。
お前らが勝てば、俺たちの道は潰される」
――料理で、人を救うか。
料理で、人を生かして戦わせるか。
相容れない理想が、静かにぶつかり合っていた。
「……俺たちは、“腹いっぱい、笑って食える世界”を選ぶ。
戦わせるための料理じゃなく、立ち上がるための料理を」
「なら、次は“対戦で”会おうや」
ルークは、屋根の向こうへ消えていった。
その夜、ソラは厨房の片隅で、
魔王様から渡された“古い木箱”を開いた。
「これは?」
「私が、皿洗いしてた頃、唯一焼いた一皿。
“人に出せるレベルじゃなかった”けど……それでも、“私の原点”なの」
中には、古びたレシピカードが一枚。
魔王様の、かつての夢がそこにあった。
「味で、誰かを変えられると思ったの。
そして今度は──あなたが、その続きを焼いてくれるのを見たい」
大会は続く。
だが今や、これは“料理大会”だけではなかった。
――理念のぶつかり合い。
そして、“食”が持つ可能性の証明の場だった。




