魔物は語る、ベリーの酸味について
俺は今、魔物にフルーツの品種改良について説教されている。
「違う。赤い外皮のやつは発酵に向かん。中が柔らかすぎる。君は実際に踏んでみたのか?」
「いや踏んではないけど!?」
「未踏ベリーを持ち帰って加工したら、酸が立ちすぎてスープの味が壊れるんだ。頼むから、収穫するなら“冷霧の丘”産にしてくれ。あそこは朝の温度差で糖が乗る」
「なにその魔物ソムリエみたいな知識!」
事の発端は単純だった。
魔王様の昼食に「皮が紫で中が冷たいフルーツ」が欲しいとのことで、森へ入った。
そしたらいたんだよ、毛むくじゃらで三メートルくらいの魔物が。
見た目は完全に“即逃げ案件”だったのに――
「あ、君、魔王城の制服着てるね。食材調達? 相談あるんだけどさ」
話しかけてきた。
しかも超饒舌。
果実の旬から風味の傾向まで、止まらない。
名前はグルノワ。
魔王軍とは一応、和平協定中の“獣人傭兵団”の元斥候らしい。
「……なんか食べ物の話しかしなくなって辞めたって噂聞いたけど、マジだったのか……」
「というわけで、冷霧ベリーは持ってけ。ちょうど熟してる」
「助かるけど、ほんとなんでこんな詳しいの……?」
「魔王様のパイ食べて人生変わったから。以来、趣味が進化した」
「恐るべし、魔王様のスイーツ力……」
こうして無事にフルーツをゲットした俺は、
城に戻る道中で、もう一人と遭遇した。
「ん、あんたか。ちょうど探してた」
「……え、誰……って、剣? 鎧? なにその肩パーツ……!」
現れたのは、金髪のショートヘアに軽装鎧をまとった女剣士。
背負ってる剣が異様にでかい。そして表情が死ぬほど眠そう。
「名前はミナ=ヴォルカ。新配属。魔王様の“腹心候補枠”ってやつ」
「腹心……候補? 初対面なんだけど!!」
「なに、すぐ慣れる。あと、俺はスープ担当になった。お前、今日から味見係だって」
「誰が決めたのそれ!!?」
「魔王様が“この組み合わせ、面白そう”って」
「感覚で組むな!!!」
こうして、新たな同僚と、
フルーツより酸味の強い日常が始まった。
ちなみに昼食は、冷霧ベリーのソースをかけた焼きチーズと、
焼きたての黒麦クラッカー、それに香草たっぷりの豆スープだった。
やっぱり辞められない気がする。




