表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
184/261

風を渡る者たち

朝靄が晴れ、風が渡ったあと――

 まかない部は、対岸の森へと足を踏み入れた。


 土は乾き、木々の葉はざらついていた。

 風は確かに吹いている。

 けれど、その流れはどこか“意志的”だった。


 ルナが立ち止まる。

「……この風、自然の匂いじゃない。

 “誰か”の手が入ってる」


 ソラが頷いた。

「吹き方に癖があるな。まるで決まりごとのようや」


 ミナが鼻をひくつかせる。

「匂いまで揃いすぎとる。

 ほんまの風って、もっと気まぐれやのに」


 ダグが短く言った。

「ここでは、風が支配されている」



風を縛る塔


 森を抜けると、岩の丘の上に塔が見えた。

 塔の周囲には、金属の輪がいくつも回転している。

 風がそこを通るたび、鈍い音を立てて光を放つ。


 ルナが目を細めた。

「風を……閉じ込めてる?」


 ソラが息を呑む。

「まるで“風の牢”やな……」


 塔のふもとには、数人の人影があった。

 彼らは灰色の衣をまとい、目元に薄い布を巻いている。

 手には細い管――笛のような道具を持っていた。


 笛を吹くたび、塔の輪が震え、風が形を変える。

 それは旋律ではなく、命令のようだった。



風使いたち


 まかない部が近づくと、

 ひとりの青年が振り返った。

 その瞳は淡い青で、風のように掴みどころがない。


 「……旅の者か。

  ここは“風の座”――風を制す者たちの地だ」


 ソラが言葉を選びながら答える。

「制す、って……操っとるんか?」


 青年は誇らしげに頷いた。

「風は混沌だ。

 だからこそ、形を与えねば世界は保たぬ」


 ルナが眉をひそめた。

「風は形を求めていないわ。

 ただ流れて、人と共に在るだけ」


 青年の瞳が冷たく光る。

「……弱き者は、風に委ねることを“共に在る”と呼ぶ。

 我らは違う。風を使いこなすことこそ、真の共生だ」


 ミナが小声で呟く。

「言うてること、まるで風を道具扱いやな」


 ダグが静かに杓子を下ろした。

「風を掴んだつもりで、息を止めとるだけだ」



風の罠


 青年は杖を掲げた。

 塔の輪が一斉に回転し、周囲の風が渦を巻く。

 地面が鳴り、髪が浮く。


 「見せてやろう――支配された風の力を」


 風が爆ぜた。

 木の葉が上へと舞い、空が歪む。

 けれどその風は、生きた風ではなかった。


 ルナが息を呑む。

「風が……泣いてる」


 ソラが叫ぶ。

「止めろ! 風は命や、鞭打つもんやない!」


 青年は笑った。

「ならば証明してみせろ。

 風を“解く”力を持つ者ならな」



結び


 風が塔の上で暴れた。

 だが吹き荒れる音の奥に、

 まかない部の鍋の蓋が――かすかに鳴った。


 ミナが微笑む。

「風の音と飯の音、どっちが強いか見せたろか」


 ソラが杓子を構える。

「風が人の味を思い出すまで、混ぜ続けたる」


 ルナが静かに呟いた。

「風よ……お前の本当の形は、“自由”の味」


 ダグが短く言う。

「支配する風は、いずれ自分を裂く」


 


 ――塔の上で、風がひときわ強く鳴いた。

 それは命令ではなく、悲鳴のようであり、

 やがてどこか懐かしい、自由の音に変わっていった。


 


 新たな地に、再び“風の戦い”が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ