表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
167/261

夜明けの風標

夜が明けはじめた。

 空の端がわずかに白み、風標の羽根がゆっくりと音を立てる。

 霜を帯びた草が光を返し、世界が静かに息を吹き返していく。


 まかない部の四人は、まだ言葉を交わさずにいた。

 灯の宿で過ごした夜――あの不思議な声の余韻が、

 風とともに残っていたからだ。



灯の名残


 ソラは消えかけた灯の火に手をかざした。

 まだほんのりと温かい。

「……ちゃんと燃えてたんやな。あの人の言葉も、夢やなかった」


 ミナが外に出て、朝の空気を吸い込んだ。

「ええ匂いや。風がまるで“おはよう”言うてるみたいやな」


 ルナが小屋の外壁を撫でた。

「昨夜と同じ木の匂い。でも……少し違う。

 ――風が通ったあとの匂いになってる」


 ダグが肩の荷を整え、静かに頷いた。

「通り過ぎた風が、道を残していったんだ」



風標の朝


 丘の上の風標が、東の光を受けて回りはじめる。

 軸がきしむたびに、低く柔らかな音が響いた。

 それは鐘の音にも似ていたが、どこか呼吸のようでもあった。


 ソラが小さく笑う。

「“風の鐘”やな。俺らに“行け”って言うてる気がする」


 ミナが頷き、荷車の取っ手を握る。

「じゃあ、風に乗って次の町へ行こか。

 きっと“腹減ってる人”がおる」


 ルナが微笑んだ。

「風が呼ぶなら、まかないも続く。

 止まらないのが、私たちの仕事ね」



出発の前


 彼らは小屋を振り返り、もう一度灯の跡を見た。

 誰もいないはずのその場所で、

 風鈴がかすかに鳴った。


 ソラがそっと帽子を取って、頭を下げた。

「ありがとうな。火、よう守ってくれた」


 ミナがつぶやく。

「風の声、また聞こえるかな」


 ルナが静かに言う。

「きっと聞こえるわ。だって――私たちが風になるもの」



結び


 朝日が完全に昇るころ、

 まかない部は丘を下りはじめた。

 荷車の車輪が草を押し、風が背中を押す。


 遠くには、また別の町の影が見えていた。


 


 ――風標の羽根がゆっくりと回り続ける。

 音は小さく、けれど確かに、旅人たちの背を見送っていた。


 


 その風はもう、まかない部の風だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ