まかない出張戦! 城外の補給地で“炊き出し指導”任務発生!
「……現地の兵が、**“飯マズ病”**にやられてるらしいの」
「病名おかしくない!?」
「正式名称:“慢性味覚拒否反応性不調症(略称・MGRF)”」
「なんかもっと病気っぽくなった!!」
発生場所は、魔王軍第七補給拠点。
前線の補給基地として重要な場所だが──
“兵士が食欲を失い、士気が下がっている”との報告が続出。
「主な原因は、現地の炊き出し担当の味センスが壊滅的だとか……」
「それで、料理救援要請ってわけか」
こうして、まかない部より選抜隊が出動することに。
【出張メンバー】
•ソラ(指導係・仕上げ)
•リド(調理技術監修)
•バス(火力担当)
•ネフ(味見練習中見習い)
現地到着。
兵舎の食堂には、何やら異臭が立ち込めていた。
「……このにおい……何を煮てるの?」
「野菜です。全部まとめて一時間ぐらい」
「味付けは?」
「ありません」
「罪じゃん」
鍋を覗いてソラが唸る。
「煮すぎて“形状は野菜っぽいもの”になってる……。味、ゼロ……」
「このままじゃ“飢えてないのに空腹”って状態になるで」
リドは現地炊き出し班に調理講習を開始。
「野菜は火の入れ方で味も栄養も変わるんや。
グツグツ煮るだけじゃ、旨味は全部スープに逃げるで」
「でも、時短で作らないと……」
「なら、バス!! 火加減っちゅうもんを見せたれ!!」
「任せろ。火は語る」
バスが石板鍋に炎をまわし、
数秒単位で焼き・煮・蒸しを切り替えて見せる。
魔法の“熱圧”を使った火加減は、まさに料理の演舞。
「……うまそう……」
「やばい、腹が鳴る……」
兵士たちの目に、光が戻ってきた。
そして、ソラが完成させた**特製“根菜スパイススープ”**が配られる。
食堂中に、温かくて複雑な香りが広がる──
「……うまい……」
「これ……あのときの、魔王城の……」
「……体が、軽くなる……」
その日、食堂では兵士たちが自然に笑い、
“味わって食べる”という行為を、取り戻していた。
帰りの馬車の中で、ネフがぽつりと呟く。
「……あんなふうに、食って“前に進める”なら、俺ももう少し、頑張れるかも」
ソラは笑って返した。
「大丈夫。腹さえ満たされてれば、人間はだいたい戦える」
「名言っぽいけど雑ですね、それ」
こうして、**まかない部の“初の現地支援任務”**は、無事成功したのだった。