表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
157/261

花咲く丘

丘一面に、小さな花が咲いていた。

 嵐のあとに芽吹いた草が、わずか数日のうちに色づいたのだ。

 淡い黄、白、薄紅――

 風が通るたび、花弁が揺れ、光が反射して丘全体がやわらかく揺らめく。


 まかない部の四人は、荷車を止め、その光景をただ見つめていた。



風に乗る足音


 そのとき、遠くから人の声がした。

 聞き覚えのある響き。

 ソラが振り向くと、丘の下から数人の人影が上ってくるのが見えた。


「……まさか」

 ミナが目を見開いた。


 先頭を歩いていたのは、旅籠町の鍛冶屋だった。

 その後ろには、パン屋の女将、子どもたち、そして見覚えのある顔がいくつもあった。



静かな再会


 誰も声を張り上げなかった。

 ただ、互いにゆっくり歩み寄り、微笑みながら手を伸ばした。


 ソラが荷車を下ろし、鍛冶屋の手を握る。

「どうして……ここに?」


「風が教えてくれたんだよ」

 鍛冶屋は笑った。

「“あの人たちはまだ歩いてる”ってな。

 そしたら、道が見えてきた。……不思議なもんだ」


 ミナが子どもたちに囲まれ、膝をついて笑った。

「おおきなったなぁ。もう風に負けへん顔してるやん」


 ルナはパン屋の女将から布包みを受け取り、そっと微笑んだ。

「……また焼いたのね」

「もちろん。あんたたちが来る気がしたからさ」



風の通り道


 丘の上に風が吹き抜けた。

 花が一斉に揺れ、花弁が舞う。

 光の中、まかない部と旅籠町の人々は輪になるように立った。


 誰も多くを語らなかった。

 その沈黙が、いちばん温かかった。


 ソラがぽつりと呟いた。

「また、みんなで飯を作れるな」


 ミナが笑いながら答える。

「せやな。風ん中で食う飯が、いっちゃんうまいんや」



花と旗


 丘の中央に、旗の切れ端が立てられた。

 風を受けて揺れるその布は、旅籠町の象徴でもあり、彼らの絆の印でもあった。


 ルナが旗を見上げ、そっと呟いた。

「……風が、繋いでくれたのね」


 ダグが頷き、微笑んだ。

「ああ。嵐も精霊も、この瞬間のためにあったのかもな」



結び


 夕陽が丘を染め、花々が金色に輝いた。

 人々の影が重なり、ひとつの輪を作る。


 


 ――再会は静かで、けれど確かな温もりに満ちていた。

 風がそれを包み、丘は笑っているように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ