花咲く丘
丘一面に、小さな花が咲いていた。
嵐のあとに芽吹いた草が、わずか数日のうちに色づいたのだ。
淡い黄、白、薄紅――
風が通るたび、花弁が揺れ、光が反射して丘全体がやわらかく揺らめく。
まかない部の四人は、荷車を止め、その光景をただ見つめていた。
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風に乗る足音
そのとき、遠くから人の声がした。
聞き覚えのある響き。
ソラが振り向くと、丘の下から数人の人影が上ってくるのが見えた。
「……まさか」
ミナが目を見開いた。
先頭を歩いていたのは、旅籠町の鍛冶屋だった。
その後ろには、パン屋の女将、子どもたち、そして見覚えのある顔がいくつもあった。
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静かな再会
誰も声を張り上げなかった。
ただ、互いにゆっくり歩み寄り、微笑みながら手を伸ばした。
ソラが荷車を下ろし、鍛冶屋の手を握る。
「どうして……ここに?」
「風が教えてくれたんだよ」
鍛冶屋は笑った。
「“あの人たちはまだ歩いてる”ってな。
そしたら、道が見えてきた。……不思議なもんだ」
ミナが子どもたちに囲まれ、膝をついて笑った。
「おおきなったなぁ。もう風に負けへん顔してるやん」
ルナはパン屋の女将から布包みを受け取り、そっと微笑んだ。
「……また焼いたのね」
「もちろん。あんたたちが来る気がしたからさ」
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風の通り道
丘の上に風が吹き抜けた。
花が一斉に揺れ、花弁が舞う。
光の中、まかない部と旅籠町の人々は輪になるように立った。
誰も多くを語らなかった。
その沈黙が、いちばん温かかった。
ソラがぽつりと呟いた。
「また、みんなで飯を作れるな」
ミナが笑いながら答える。
「せやな。風ん中で食う飯が、いっちゃんうまいんや」
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花と旗
丘の中央に、旗の切れ端が立てられた。
風を受けて揺れるその布は、旅籠町の象徴でもあり、彼らの絆の印でもあった。
ルナが旗を見上げ、そっと呟いた。
「……風が、繋いでくれたのね」
ダグが頷き、微笑んだ。
「ああ。嵐も精霊も、この瞬間のためにあったのかもな」
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結び
夕陽が丘を染め、花々が金色に輝いた。
人々の影が重なり、ひとつの輪を作る。
――再会は静かで、けれど確かな温もりに満ちていた。
風がそれを包み、丘は笑っているように見えた。




