地を渡る響き
風が止み、地が鳴った。
足の裏から伝わる低い鼓動が、静かな丘全体を揺らしていた。
それは地震のようでありながら、どこか一定の拍子を刻んでいる。
ソラは耳を澄ませた。
「……聞こえるか? 地の下で、何かが“歩いてる”音がする」
ミナが草を握りしめた。
「歩いてる……? けど、誰もおらへんやん」
ルナがしゃがみこみ、土に手を当てる。
「……これは、鼓動よ。生きてるわ、この大地が」
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響きの正体
次の瞬間、地面の裂け目から淡い光が立ち上がった。
それは炎ではなく、土そのものが光を放っているかのようだった。
光はゆっくりと形を取り、やがて大きな影となって姿を現す。
岩の腕、苔むした肩、樹の根のような脚――
それはまるで、大地が人の形を借りたような巨影だった。
ソラが思わず息をのむ。
「……こいつが、“地の精霊”か」
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交わされる意思
巨影は言葉を発しなかった。
だが、大地そのものが響くような重い声が、四人の心に直接届いた。
――風の子らよ。
――汝ら、何を求む。
ルナがゆっくりと答える。
「私たちは……ただ、“この道の行く先”を知りたいの」
――道は在る。
――だが、地を踏む者は、土を忘れやすい。
精霊の足元に咲いた花が、次の瞬間しおれていく。
ソラが見つめ、拳を握る。
「……命を支えてくれてるのに、俺たちはそれを壊してきた、ってことか」
――気づく者がいるなら、それで良い。
――風が教え、地が支える。
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大地の祝福
光が強まり、彼らの足元の地面に模様が浮かび上がる。
まるで地図のように、次の行き先を指し示していた。
ミナが思わず口を開く。
「これ……道か?」
ルナが頷く。
「地が、“歩むべき道”を示してくれてる」
巨影はゆっくりと消えゆきながら、最後の声を残した。
――地に在るすべては、巡る。
――立ち止まるな、風の子らよ。
そして、光は静かに大地へ戻った。
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結び
残された丘には、深い静けさと温かさがあった。
ソラは足元の土を掬い、軽く握る。
「……生きてる。ほんまに、全部が生きてるんやな」
ミナが笑う。
「そらそうや。鍋の野菜も、この土が育てたもんやしな」
ダグが荷車を押しながら言う。
「なら、次の土地でも“地の声”を聞けるようにしておこうぜ」
ルナは振り返り、消えた光の跡を見つめた。
「風も地も……きっと、同じところへ導こうとしてる」
――地は眠らず、彼らの歩む道の下で脈打ち続けていた。




