食外交、始動! 南大陸の調味料商人がやってきた
その朝、魔王城の門前に、
派手な衣装の商人一行と、スパイスの香りがやってきた。
「ごきげんよう。魔王様のレシピに使われていた“謎の旨味”、
我が国の香辛料市場では話題騒然でして」
訪れたのは、南大陸の香辛料貿易組合“アブラカ商会”の使節団。
代表は、色とりどりの羽織に身を包んだ青年商人、サミル・デ=ローズ。
「こちら、食材調査員、輸送兵、香り担当、それと調味料ソムリエです」
「……ソムリエ?」
「嗅いだだけで、配合比率をおおよそ当てる男です」
「職人芸すぎない!?」
目的は、“魔王城のスープ”や“ポトフ”に含まれる第六の旨味の解析。
サミル曰く、
「南では“甘味・辛味・苦味・塩味・酸味”がすべてだと思われていたが、
あなた方の料理には“それ以外”がある。香りではなく、深層の余韻だ」
「うわ、なんか急に本格的なグルメアニメっぽくなってきた……」
「うちの魔王様、“余韻で人間を黙らせる”の得意だからね」
そこで突然、ソラが“香り対決”に巻き込まれる。
「では実演として、5種類のスパイスを混ぜた香りを当ててみてください」
「え!? なんで俺!?」
「魔王様直伝の“鼻利き盛り付け係”って聞いたので」
「そんな称号いつのまに!?」
結果:
ソラ、4種類までは正解するも、最後の1種に悩む。
「これ……“焦がし甘根”じゃない……。でも、近い……」
「正解、“乾燥幻葉”。似て非なる香り!」
「ぐぬぬ……!」
その様子を見ていた魔王様が、一言。
「じゃあ、こっちが魔王城の“第六の旨味”よ」
差し出されたのは、
“干し冬の実”と“香魔草”を低温で数日間燻した、特製ペースト。
サミルがそれをひと舐めして、固まった。
「……これ……口に含んだ瞬間は“無音”、
なのに、後から脳がうま味を思い出す……!?」
彼は震えながら言った。
「我々は……まだ“味”の入り口にいたのだな……」
そして、正式に提案された。
「魔王城と、南大陸の“香辛料外交”を始めたい。
調味料の交換、食文化の共有、そして共通の旨味言語の確立を」
魔王様は微笑み、こう返した。
「いいわよ。ただし──食べるときは、感謝してね?」
こうして、“食を通じた国交”が始まった。
武器を置き、
香りと味と笑顔で交わす、新しい世界の形が。