揺らぐ刺客の心
刺客は旗を奪い損ね、群衆に取り囲まれていた。
木槌、石、杖――庶民の粗末な武器が四方から突き出される。
鋼の刃ではなく、必死の決意が彼を封じていた。
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群衆の姿
「この旗は渡さん!」
「守るんや、みんなで!」
「俺たちの町は俺たちで決める!」
老いた声も、若い声も、震えながらも確かだった。
母親の腕に抱かれた子さえ、小さな手で旗を指さしていた。
――その姿が、刺客の胸に鋭く刺さった。
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揺らぎ
彼はかつて、逆に旗を守る側だったことを思い出した。
焼け落ちた故郷で、同じように旗を囲んだ群衆を。
だが、その旗は裏切りに利用され、希望は瓦解した。
「……旗なんて……ただの布切れのはずだ……」
そう呟きながらも、目の前の人々の姿は「布切れ以上のもの」を示していた。
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まかない部の言葉
ソラが前に出て、刺客を睨んだ。
「見てるだろ。旗を守ってるのは剣じゃない。
一人ひとりの想いが旗になってるんだ!」
ルナが冷静に付け加える。
「あなたの刃が切ろうとしてるのは、布じゃなく……人の心よ」
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刺客の動揺
刺客は短剣を握りしめたまま、腕を震わせた。
斬り払えば簡単に群衆を散らせる。
だが、その小さな声の重なりを前に、足が動かなかった。
「……なぜ……俺は……」
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結び
冷徹に鍛えられた刺客の心が、今の町人たちの姿によって揺らぎ始めていた。
――布切れではなく、人の旗がそこにあった。