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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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再現ポトフ、完成。そして魔王様が涙した日

「……いい香り。

 これだ、この香り……ずっと、憶えてた……」


 


 大鍋の中で、

 “冬の実”がとろけるように煮込まれていく。


 骨つき肉のうま味、香草のほのかな苦み、

 魔力で整えられた火加減が、すべてをひとつに溶かす。


 


「焦げつきゼロ、灰汁取り完璧、香り損失なし。火力天才」


「うむ、泡立て器を握る者に失敗なし」


「いや今回泡立て器関係ないよね!?」


 


 ミナとリドの連携が冴えわたり、

 ポトフは、魔王城史上“最も静かな鍋”となった。


 静かに、丁寧に、あたためられる味。

 これは、過去の自分のために作る料理。


 


「さて……盛り付けは、ソラ。任せていい?」


「もちろんです。……これは、絶対にしくじれないんで」


 


 皿は白い陶器。

 具材の彩りを最大限に引き立て、

 湯気が立つその中心に、“冬の実”をそっと置く。


 


「……できました。魔王様、どうぞ」


 


 魔王様は無言で席につき、

 スプーンを手に取った。


 誰も言葉を発さない。

 厨房中が、息を呑んだ。


 


 ひとくち。


 


 静寂。


 


 そして、ふたくち、みくち。


 


 魔王様の手が止まり、

 ポトフの中に、ぽたんと、

 ひとしずくの涙が落ちた。


 


「……あのとき……本当は……

 こんなふうに、食べたかったんだ……」


 


 誰も声をかけなかった。

 でも、誰も目を逸らさなかった。


 食べられなかった過去。

 味わえなかった温もり。

 そのすべてが、

 この魔王城のキッチンから、救われていく。


 


「……ありがとう。これは……わたしにとっての、“初めてのごちそう”だった」


 


 魔王様がそう言ったとき、

 俺の胸の中にも、

 じんわりと何かが広がっていった。


 


「この城に来て、よかった……」


 


 そう、心の奥で呟いていた。


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