夜明けの議論
炎の夜はようやく静まりつつあった。
広場に残るのは焦げた匂いと、まだ立ちのぼる薄煙。
しかし空はすでに白み始め、東の地平に夜明けが差し込んでいた。
人々は逃げ去らず、広場に集まっていた。
炎の担い手の執念を前に、まかない部の粘り強さを目にした今、誰もが胸に問いを抱えていたのだ。
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群衆の声
「旗なんて、もういらん! あんな炎を呼ぶだけや!」
「いや、旗がなければ人は散り散りになる。ひとつに集まるには旗が要るんだ!」
老人が杖を振り上げ、若者が声を張る。
母親は子を抱きながら叫ぶ。
「うちの子を守れるのは、旗やなくて、人の手や!」
群衆の声は渦を巻き、議論は止まらなかった。
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まかない部の立場
ソラが前に出て、声を張った。
「俺たちは……旗を完全に否定する気はない。
けど、炎の旗は違う! 焼き尽くす旗じゃなく、囲む鍋みたいな旗を――」
ルナが冷静に続けた。
「象徴は使い方で変わるわ。
人を守るために掲げるのか、それとも縛るために掲げるのか」
ダグは短く言い切った。
「俺は仲間を守る約束として旗を掲げたい」
ミナは涙をぬぐいながら叫んだ。
「みんなで食べて笑えるんやったら……それが旗でええやんか!」
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揺れる群衆
「……確かに、旗そのものが悪いわけやない」
「でも、間違えば町を壊す……」
「それでも選ばなきゃならんのか……?」
人々は互いに顔を見合わせ、声を交わし合った。
夜明けの光がその姿を照らし、揺れる心を浮かび上がらせる。
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結び
夜明けの議論に、まだ答えはなかった。
だが人々は恐怖で沈黙するのではなく、声を出し合う道を選んでいた。
――炎を越えた町は、旗の意味を問い直すための最初の一歩を踏み出していた。