炎と混乱の中で
轟音と炎に包まれた旅籠町。
広場は逃げ惑う群衆で溢れ、悲鳴と怒号が入り乱れていた。
倒れた屋台の上で紙花が燃え、赤い火の粉が夜空に舞い上がる。
「こっちだ! 出口は南だ!」
「子どもを先に!」
人々の声が混ざり合う中、ソラたちは鍋を背に炎を避けながら走っていた。
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敵を追う兆し
ルナが炎の中で目を凝らす。
「……見えた。人混みを抜けて、裏路地に消える影がある!」
ミナが叫ぶ。
「こない大混乱の中で逃げてく奴なんて……絶対、仕掛け人や!」
ダグは剣を抜き、煙を裂くように駆け出した。
「追うぞ! ここで逃せば、次はもっと大きな火が来る!」
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炎の中の追跡
裏路地は炎に照らされ、影が赤黒く揺れていた。
走る人影は黒い外套をまとい、町の混乱を背に軽やかに駆け抜けていく。
ソラは杓文字を構え、息を切らせながら叫ぶ。
「待てっ! お前が旗を裂こうとしてるのか!」
影は答えず、壁を蹴って屋根に跳び上がった。
瓦の上を走る姿は、炎の中の幻のようだった。
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追いつめられる瞬間
ダグが剣を振り上げ、屋根の影を追う。
だが、炎の熱気で足元が揺れ、影は次の路地へ飛び降りた。
その一瞬、フードの下から見えた横顔に、ソラの胸が強く鳴った。
「……あれは――!」
見覚えのある顔。
だが記憶と結びつけるには、炎と煙が邪魔をしていた。
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結び
町は燃え続け、人々はまだ混乱の中にある。
だがソラたちの視線はすでに、逃げる影だけを追っていた。
――炎の中で、旗を裂こうとする敵の姿が、確かにそこにあった。