祭りの最中に
太鼓と笛の音が最高潮に達し、人々の歓声が広場を揺らしていた。
踊り子たちが舞い、紙の花びらが空に舞い散る。
町全体が喜びの渦に包まれ、裂け目など存在しないかのようだった。
「……すごい熱気やなぁ!」
ミナは目を輝かせ、屋台の菓子を両手に抱えて笑っていた。
「熱気に酔ってるんだ」
ルナは群衆を見渡しながら小さく呟いた。
「だからこそ……危うい」
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北の街道
その瞬間、北の街道で荷馬車が縄に足を取られ、派手に横転した。
馬がいななき、荷が飛び散り、爆音のような破砕音が町中に響き渡った。
「事故だ!」
「いや、襲撃か?!」
群衆の歓声は悲鳴に変わり、広場にざわめきが走った。
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南の倉庫
ほぼ同時刻、南の倉庫から黒煙が立ちのぼった。
火薬樽に火が移り、轟音とともに扉が吹き飛ぶ。
炎が夜祭の灯りと交じり、町を紅く染め上げた。
「火事だ!」
「逃げろ――!」
人々の声が入り乱れ、広場は混乱の渦に呑まれていった。
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広場の混乱
逃げ惑う群衆の中で、屋台が倒れ、踊り子が悲鳴をあげ、太鼓は無惨に転がる。
子どもが泣き叫び、母親が必死に抱きかかえて走る。
祝祭の華やかさは、一瞬で地獄絵図へと変わっていた。
「……罠だ!」
ソラが杓文字を抜き、叫んだ。
「誰かが、この町を狙ってた!」
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結び
炎と煙が空を覆い、祭りの音楽は悲鳴に飲まれて消えた。
広場に漂う鍋の香りさえ、焦げ臭さにかき消されていた。
――祝祭は破滅の幕開けに過ぎなかった。