裂け目の祝祭
旅籠町の広場は、色とりどりの旗と花で飾られていた。
露店には果物や焼き菓子が並び、子どもたちは笑いながら駆け回る。
楽師たちの奏でる笛や太鼓が、朝の空気を華やかに震わせていた。
「……まるで昨日までの騒ぎが嘘みたいやな」
ミナが目を丸くし、屋台の甘い匂いに顔をほころばせる。
「町は無理にでも笑おうとしてるのよ」
ルナが静かに答えた。
「裂け目を隠すために、笑顔を上塗りしてる」
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祭りの賑わい
舞台では踊り子が舞い、商人が声を張り上げる。
人々の顔には確かに笑みが戻っていたが、その笑みの奥には薄いひび割れが残っていた。
ソラは杓文字を背に、群衆を見渡した。
「……旗を掲げるかどうか決められぬまま、祭りだけが進んでる」
ダグは腕を組み、眉をひそめた。
「嵐の前の華やかさ、だな」
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裏で動く罠
その頃、北の街道。
縄が道に仕掛けられ、馬車を止める準備が整えられていた。
南の倉庫では火薬樽の上に布がかけられ、火を点すだけの状態になっていた。
「祭りの喧騒は格好の隠れ蓑だ」
闇の中の囁きが、不気味に笑った。
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交錯する空気
広場に戻れば、子どもたちが紙の花を振り回し、歓声をあげている。
その頭上を、まるで影のように黒い鳥の群れがかすめた。
ルナが目を細め、呟く。
「……笑顔の下に走る影。見えないところで何かが蠢いてる」
ソラの胸の奥に、言いようのない不安が芽生えていた。
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結び
祭りはますます盛り上がっていく。
人々の笑い声、音楽、鍋の香り。
だが、その足元にはすでに裂け目が広がり、破局の火種が潜んでいた。
――華やかな祝祭は、破滅の前奏曲だった。