異動希望者、続出!? 魔王城のまかないは中毒性アリ
「……すみません、確認なんですけど、本当に“全員が”異動希望ですか?」
「うん。魔王軍第六課(爆発物担当)から、ほぼ全員」
「理由は!?」
「“飯がうまいらしいから”」
「そんなんで軍が回るかぁぁぁあ!!」
朝。
魔王軍総務課の前には、山のような書類が積まれていた。
すべて──**「魔王城直属部署への異動希望」**
「で、なんで俺が処理してんの?」
「総務じゃなくて“厨房代表”だから。まかない部門の顔」
「いつからそんなことに!?」
原因は明確だった。
魔王城の“まかない”がうますぎる
給食を食べた人はしばらく他の飯が食えなくなる
一度魔王様に“肉団子スープ”を出された兵士が、
翌日「退職願」出しかけたらしい(理由:この味を超える職場が存在しない)
「で、魔王様は?」
「“対応しきれないので、抽選制にしましょう”だって」
「冷静……というか、魔王軍とは思えないシステム導入してきた!!」
その結果、
第一回“まかない体験ツアー”が開催されることになった。
選ばれしラッキー兵士は10名。
いずれも他部署の猛者たち。
「案内係、ソラくんお願いねー!」
「また俺かーーー!!!」
ちなみに見学内容は:
1.材料の下処理(魚のウロコ取り、香草の束ね方)
2.仕込みの実演(魔法を使った火加減術)
3.魔王様の調理実演(今日はスモーク香草鶏)
4.まかない試食(主目的)
料理が完成すると、
体験ツアー参加者たちは言葉を失った。
「……あれ……俺、今まで“食ってた”つもりだったけど……」
「味が……層になってる……なんだこれ……?」
「ちょっと泣いていいっすか……?」
──魔王様は言った。
「おいしいって、幸せに直結するから。
だから私は、どの職種の人にも、おいしいを渡したいのよ」
その夜。
総務課には再び、異動希望が山積みとなった。
なお、案内係ソラの評価欄には
「話が聞きやすかった」「案内が丁寧」「盛り付けが早い」
という好評価が並んでいた。
「……なんか、だんだん慣れてきたな……」
魔王城のまかないは、魔物より強い。