M‐1 不齢の異能力
「20XX年全世界に不思議な人物が表れました。それは、幼年時代から年を取らない人間で彼らは不齢の異能力者と呼ばれ特殊な能力....通称『頭文字』を持っていました。それは弾丸を指から打つことが出来るものだったり、剣の刀身を三十メートル伸ばすものだったり様々ですが発見当初では武器関連以外の能力は発見されていませんでした。しかし、この世界に能力者が表れるという超常現象が起きたことにより不安定ながらも保たれていた世界のバランスが崩れ去り第三次世界大戦が起きてしまったのです。
ちなみに、今ではこの不齢の異能力者を持つ人間の使える『頭文字』は様々なものが表れて階級わけされるようになりました。その一番強い階級が頂点と言います。このクラスの中からこの階級が出ることを私は楽しみにしています。って、余談が長くなりすぎてしまいましたね...それでは授業に戻ります。
しかし、このその戦争は七つの大国家が生まれることにより一時的に終結しました。そのうちの国家の一つが、あなた達の住むここ!!有辺璃御洲なのです!!」
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ちょうどチャイム音が鳴り授業が終わる......ここ、有辺璃御洲軍事学園に通ってから三年最後の授業が終了する。
明日卒業式をしたら、晴れて俺は有辺璃御洲軍の兵士となる。兵士になってから一年は訓練期間だが、実戦に駆り出される事もあるらしい。
「ねぇ......卿頼もしかして本当に七つの国を全て統一しようとしてるの??」
「当たり前だろ。なんだ?お前不齢の異能力者の癖にビビってんのか??」
俺はこの学園内の唯一の友達である美鈴に今までずっと持ち続けてきた俺の考えを否定され、強めに言い返す。美鈴は不齢の異能力者でありながら弱腰だ。そして、こんな幼年女性の見た目をしておきながら俺と同年代だ。コイツは、昔からの付き合いだが俺の夢である七大国家を全て統一するという夢を事あるごとに辞めさせようとしてくる。
「危ないしやっぱり卿頼は家業を継いで商人になるべきだよ!!おばさんもそれを望んでるよ!!」
不齢の異能力者は戦争に無理矢理連れて行かされる。なぜなら、彼らの持つ頭文字は非常に強力で不齢の異能力者の居る人数によってどちらの国が勝つかかが決まるらしい。しかし、戦争が不齢の異能力者だけになることは無かった。それは、一つだけ彼らには大きな欠点があったからである。どうやら、不齢の異能力者は不齢の異能力者に対して攻撃が出来ないらしい。不齢の異能力者が持って打った銃は一般人には効くが、不齢の異能力者には効かない。刀、戦車、素手、投げ技だとしてもすべて同様にダメージがゼロになってしまうらしい。だから、不齢の異能力者は一般人が殺す他ないのだ。まぁ、殺すほどの実力を持っている人間じゃないと無駄だが.....。つまり、不齢の異能力者である美鈴は戦争に連れていかれる.....それを黙ってみていろって言われる方が無理な話だ。
そして、この世界では一般人と不齢の異能力者が結婚すると子供は必ず不齢の異能力者になってしまうらしい。それは、美鈴も例外ではなく、美鈴の母親も不齢の異能力者だった。
そんな美鈴の母はよく戦争に行っていた。しかし、戦争は生と死が共存する場所...そんな場所に何度も行って毎回帰ってくる方が難しい。美鈴が六歳の頃だっただろうか?帰らぬ人となってしまった。それから美鈴の家族と接点のあった我が家が引き取り育てて来た、だからだろうか?中学生になった辺りから異様に俺の事を心配するようになった。何をするにしても俺の安全を一番に考えるようになり、自分のことは全て二の次。正直自分を大切にしてもらいたい...。
「たとえ俺の母親がそれを望んでたとしても構わないさ...俺は上官になって世界を統一するために刀神と呼ばれるまで、刀をずっと練習してきたし乗り物操縦訓練も受けてきたんだ...ここまで来て商人の道になんて引き返せないさ」
多少の罪悪案はあった、善意百パーセントで言ってくれている美玲に対してこの仕打ちは俺でも酷いと思う。そう冷たく言い俺は教室を出ようとしたその時だった。
「...別に卿頼は酷くないよ?」
そう美鈴は呟いた。俺の今の言葉は全て頭の中で思っていた言葉...だが、何故か美鈴はその言葉を聞こえているのが当然かのように話していた...
「は?なんで?」
「え?だから、別に卿頼が私に対して強く言っちゃうのは仕方がないことだと思うよ?だって、自分の夢を否定されてるわけだし...多分私だって嫌な気持ちになると思うから...」
「いや、そういう事じゃないんだ...俺今の言葉心の中で呟いたつもりだったんだけど?声出てたか?」
「「..........」」
お互いに沈黙が続く。しかし、その空気に耐えかねた美鈴がようやく口を開けて喋り出す。
「じ、実はね?私の頭文字は共振って言って人の心を読める力なの....」
先ほどの授業で『頭文字には様々なものが出始めている。』と言っていたが今もなお武器関係じゃない頭文字は少数だ。
しかしどうやら俺の身近に居たらしい...頭文字名は共振...相手の心を読めるらしい、でも、読めるって事は...
「「今俺の考えていることも分かってることか?」」
ハモった...完全に...黒って...美鈴と俺の視線が合う、何故か彼女は俺と全く同じ動きをしていた。俺が頭に手をやると美鈴も頭に手をやり、俺が貧乏ゆすりを始めると当然のように美鈴も始める...。
かと、思えば急に美鈴は何かが帰ってきたのか少し上を向いてから「あれ?何の話ししてたっけ?」と呟いた......
「は?」
思わず俺の口から言葉が漏れた。どうやら美鈴はハモった後からの記憶がないらしい。本人によると意識が能力によって深淵に落とされたらしくそれから暫くして気付いたら貧乏ゆすりをしていたらしい......さっぱり分からん!!
とりあえず俺は机に立てかけていた愛刀を背負い、何があったかを話しながら美鈴と共に教室を出て、帰路に着いた。
別れる時俺は彼女に向けて一言放った。
「あまり、その頭文字使わない方が良いかもな...」
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「えーーー、君たちの様な勇敢な若者が兵士に志願してくれたことをを私はとても嬉しく思う。是非!この有辺璃御洲の為に身を粉にして頑張ってもらいたい。以上だ」
長々しい軍長の話を聞き終えた俺たちは、一つの広い部屋に来ていた。志願者たちが自由に話している中、一人の大人の女性が入ってきて話始めた。
「やぁ、生徒諸君。今日から君たちの世話をすることになった!有辺璃御洲陸軍司令官の蓮川佳奈美だ!!よろしくな!!好きに呼び捨てで呼んでくれ!!」
初めて見た印象としては、礼儀正しい明るい運動好きの人間だろうなーと言う印象だ。
「私は司令官と言う理由で、後ろから指揮することが多かったり女ということで下に見られがちだ。多分この中にも下に見ている奴は居るだろう?えーーっと、この中で一番強いのは.....崎島卿頼!貴様だな?」
「俺?どうして?」
まさかの指名だった。しかし、俺はこの蓮川佳奈美という女の事を信頼していなかった。
「お前は刀神という二つ名を持っているらしいじゃないか!!この時代から二つ名を持っている人間は強くなるぞ?その例が私だ。さぁ、刀神卿頼!!私と模擬戦をしようじゃないか!」
「わかった。いいぜ!!」
信頼していなかった俺は即座にOKを出して。続けざまに条件を出す。
「その代わりに俺の使う武器はこの刀で良いよな?あと、俺が勝ったら敬語使えよ?」
「いいとも!だが、その代わり私が勝ったら君が私に敬語を使ってくれ。あ、あと呼び捨てじゃなくて蓮川先生と呼べそれじゃぁ、外でやろうか。ここだと危ないしね」
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俺たちは外に出てお互いに他の生徒が見守る中向かい合う。蓮川の選んだ武器はまさかのBB弾だった。
「舐めてるのか?」
俺はそう問いかける。しかし、彼女は黙って首を振った。
「むしろ、警戒してるからこの武器なんだ。この武器は君に相性がめっぽう良い。それじゃぁ始めようか!」
そういわれ、俺は剣を構えて目の前に立っている蓮川を見る。俺の戦い方は基本全て反撃型。相手の出方を疑うしかな―――い.....??
「痛っ」
ちょっとした痛みを感じつい呟く。どうやら、俺の右の頬にBB弾の玉が当たったらしい。
彼女の手が引き金に触れたら球を打てばいいと思いずっと手のあたり俺はずっと引き金を見ていた。しかしは、彼女は俺にとらえられないスピードで撃った.....マジかよ.....純粋に凹む。
だが、このまま打っていたとしても所詮BB弾.....俺は倒れないだろう.......
「そうかそうか!!貴様の得意戦術は確か反撃か....いいだろう!」
そう言うと、彼女は地面をけって俺の懐に入ってきた!!俺は即座に刀を振り下ろす。たとえこのまま殺してしまっても構わない!!!
俺は刀を振り下ろした。しかし、そこにもう蓮川は居なかった。その瞬間俺の首に強い刺激が走った。ありえない....普通の人にこんな力を出せるはずが......な....い........。
「.....っとこんなもんかな?反撃と言っても攻撃を食らってからやり返す感じじゃなくて、攻撃してきた相手を狩る感じか.....筋は悪くない......よし、お前ら!部屋に戻るぞ~~.....って、こいつまだ気絶してるのか....しょうがない!!今日は解散だ!!」
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「ん.....あ......ここは?」
「お、目覚めたか?すまないな気絶させてしまって。」
俺は気絶前に感じていた疑問を投げかけた。
「蓮川.....あんた....人間か....?」
その俺の質問を受け止めた蓮川はしばらく黙っていたかと思うと少しにやっと笑って首を振った。
「やっぱり気づくか.....そうだ、私のあの力は私本来の力ではない。私は半齢の異能力者だ。」