和光市での探索開始
和光市の観光を終えた二人は、次に本来の目的である「合言葉」の手がかりを探すため、街をじっくりと調べることにした。圭介は真剣な表情でスマートフォンを見ながら、これからどこを回るべきか考えていた。
「まずは、理化学研究所に行ってみようか。」圭介は地図を確認しながら言った。
「研究所って…合言葉と関係あるのかな?」奈緒は少し不安げな顔をしながらも、興味津々だった。
「それは分からない。だけど、祖父がこの場所を最初の手がかりとして選んだ理由が、何かしらあるはずだ。理化学研究所は、日本でも有名な科学研究機関だし、そこに何かヒントが隠されている可能性は十分にある。」圭介は真剣に話した。
奈緒はその説明に納得し、二人は理化学研究所の方へ向かうことにした。和光樹林公園からそれほど離れていない場所にあるその施設は、外見からもその規模と歴史を感じさせる立派な建物だった。
「さすがに中には入れないよね?」奈緒が少し遠慮がちに尋ねる。
「うん、入ることはできない。でも、周りを調べてみれば、何か手がかりが見つかるかもしれない。」圭介は辺りを見回しながら歩き出した。
理化学研究所の周辺は、静かな雰囲気に包まれていた。近代的な建物と自然が調和しており、研究所の敷地内には広々とした緑地もあった。二人は建物の周囲を歩きながら、注意深く周りを観察していた。
「何か、ここに隠されているようには見えないけどなぁ…」奈緒がつぶやく。
「確かに。」圭介も同じように感じていた。「でも、理化学研究所が選ばれた理由は何かあるはずだ。祖父さんがこの場所を知っていたのか、それとも何か特別な記憶があったのか…。」
「それにしても、こんなに静かな場所にあるんだね。科学の最先端がこんなところで研究されてるなんて、不思議な感じ。」奈緒は感心したように周りを見渡した。
二人はしばらく敷地の外を歩き続けたが、手がかりらしきものは見当たらなかった。
「ここには何もないのかな…」奈緒は少し落胆した様子で呟いた。
「まだ分からないさ。」圭介は冷静な口調で答えた。「理化学研究所自体に手がかりがなくても、この近くに何かあるかもしれない。もう少し広範囲を調べてみよう。」
二人は理化学研究所の周辺をさらに歩き続け、近隣の小さな公園や古い建物を訪れたが、手がかりは一向に見つからなかった。
「やっぱり簡単にはいかないか。」圭介は少し疲れた様子で立ち止まった。
「でも、理化学研究所は面白かったね。私たち、いろいろ見て回れてよかったじゃん。」奈緒は明るい声で励ました。
「そうだな。無駄ではなかった。ここに何かが隠されているという確信が持てたわけじゃないけど、何かしらのヒントは得られたかもしれない。」圭介は自分を納得させるように言った。
「じゃあ、次はどうする?」奈緒が尋ねた。
「次は…川越街道沿いを探してみようか。古い建物や碑文が残っている場所が多いから、歴史的な何かが手がかりになるかもしれない。」圭介は再び地図を確認しながら答えた。
二人は川越街道へと向かった。そこは江戸時代に栄えた街道であり、昔の宿場町の名残が今でもところどころに残っている。歴史ある建物や古い石碑が立ち並び、まるで時代を遡ったような雰囲気を感じさせた。
「ここも不思議な場所だね。」奈緒は周りを見渡しながら言った。「昔の人たちがこの道を行き交っていたんだね。」
「そうだな。川越街道は、江戸時代には重要な街道だった。祖父さんも、この場所に何か特別な思いを持っていたのかもしれない。」圭介は歩きながら、注意深く周りを観察していた。
「もしかして、石碑とかに何か手がかりがあるんじゃない?」奈緒がふと思いついて言った。
「それはあり得るな。古い石碑や建物には、歴史的な意味が込められていることが多いから、何かしらのメッセージが隠されているかもしれない。」圭介はその言葉に同意し、二人で石碑や記念碑をじっくりと調べ始めた。
しばらく歩き回っていると、奈緒が何かに気づいた。
「これ、見て!この石碑に何か彫ってあるよ。」奈緒が指差したのは、古い石碑だった。苔むした表面には、風化して読みづらい文字が刻まれていたが、よく見ると何か意味のあるメッセージが隠されているようだった。
「確かに…何か書かれているな。」圭介は石碑に近づき、じっくりと観察した。「『栄光は過去にあり』…って書いてある。どういう意味だ?」
「過去に栄光がある…?もしかして、祖父さんのことを指してる?」奈緒は少し首をかしげた。
「それか、この場所の歴史に関わる何かかもしれないな。」圭介は考え込んだ。「とにかく、この石碑には何か重要なことが書かれている気がする。このメッセージが合言葉に繋がる手がかりなのか…?」
二人はしばらく石碑の前で立ち尽くし、考えを巡らせた。
「まだ全体像は見えないけど、ここに来たのは間違いじゃなかったみたいだね。」奈緒は微笑んだ。「もう少し探してみようよ。他にも何か手がかりがあるかもしれないし。」
「そうだな。少しずつでも、前進している感じがする。」圭介は深く頷いた。
二人はその後も川越街道沿いを歩き続け、他の石碑や建物を調べながら、少しずつ合言葉の手がかりを集めていった。和光市での探索はまだ終わりを迎えていないが、彼らは確かに前進していることを感じていた。
「ここから先はどうなるんだろうね。」奈緒がふとつぶやいた。
「それは俺たち次第だな。祖父さんが何を遺そうとしているのか…それを見つけるのは、俺たちの役目だ。」圭介は決意を新たにし、再び歩き出した。
和光市での旅は、まだ始まったばかりだ。合言葉の謎は深まるばかりだが、二人は少しずつ答えに近づいている。次なる手がかりは、どこに隠されているのか――。