和光市ってどんなところ?
兄妹が最初に選んだ合言葉の手がかりを探す地は、埼玉県和光市だった。圭介の会社での仕事の関係で名前を聞いたことがあった場所だが、奈緒にとっては馴染みのない土地だった。
「ねぇ、兄ちゃん。和光市ってどんなところなの?」電車の中で、奈緒がふと尋ねた。
圭介は少し驚いたように妹を見たが、すぐに口を開いた。「和光市は、埼玉県の南端にある市だな。東京都との境にあるから、東京に通勤する人が多いんだ。東武東上線の和光市駅は副都心線の始発でもあるし、便利な場所なんだよ。」
「へぇ、東京に近いんだね。」奈緒は窓の外を見ながら頷いた。「でも、和光市ってそんなに有名じゃないよね?観光地とか、特に思い浮かばないけど。」
圭介は少し笑った。「まぁ、和光市は観光地って感じじゃないな。でも、色々と重要な場所があるんだ。例えば、和光市には理化学研究所っていう日本を代表する研究機関がある。ノーベル賞を受賞した研究者もいるんだぜ。」
「へぇ!ノーベル賞?」奈緒は目を丸くした。「そんなすごい場所があるのに、知らなかったよ。」
「そうなんだ。理化学研究所は、日本の最先端技術や科学研究が集まっている場所だから、和光市はその意味でも注目されているんだよ。」圭介は続けた。「あと、国道254号が通っていて、この道は『川越街道』とも呼ばれてるんだ。歴史がある道で、昔は川越藩に繋がる主要な街道だったんだよ。」
「川越街道かぁ。歴史があるんだね。」奈緒は地図を眺めながら、興味深そうにしていた。
「うん。和光市は、昔は農村地帯だったけど、戦後の高度経済成長期に急速に都市化した場所なんだ。だから、今では住宅街が広がっていて、通勤や通学には便利な町として知られている。東京に近いけど、都心の喧騒とは少し離れていて、静かなところも多いんだ。」
奈緒はさらに質問を続けた。「でもさ、なんでおじいちゃんが和光市に関係してるの?なんかピンとこないけど。」
圭介は少し考え込みながら答えた。「それが、俺にもよく分からないんだ。祖父さんが和光市に何か特別な繋がりを持っていたなんて、聞いたことがない。でも、俺たちが調べた資料には、和光市が最初の手がかりだって記されていた。何かあるに違いない。」
「ふーん、なんだか不思議だね。」奈緒は眉をひそめた。「合言葉が和光市に隠されてるなんて、ちょっと予想外だよ。」
圭介は頷いた。「確かにな。でも、何か意味があるはずだ。祖父さんは、いつも先を見越して計画を立てる人だった。俺たちがここに来る理由が、きっとあるんだよ。」
電車が駅に近づくにつれて、奈緒の表情も少し引き締まってきた。「じゃあ、まずは何をするの?和光市のどこを探せばいいのかも、まだ分かってないよね。」
「まずは、理化学研究所の近くを調べてみよう。あとは、川越街道沿いの古い建物や記念碑を見て回るのもいいかもしれない。地元の人にも話を聞いてみる必要があるな。」圭介は、すでに次の行動を考えている様子だった。
「なるほど。でも、そう簡単には見つからないよね、きっと。」奈緒は笑いながら言った。「ま、のんびりやろうよ。急いで見つけたって、何か見落とすかもしれないしね。」
「そうだな。」圭介も微笑んだ。「焦らず、じっくり探してみよう。」
電車がゆっくりと和光市駅に到着した。駅のホームに降り立つと、奈緒は小さく息を吸い込んだ。「なんか、普通の駅だね。でも、なんかワクワクしてきた。」
圭介は奈緒の隣に立ち、駅の周りを見渡した。「ああ、ここからが本番だ。手がかりを見つけて、次の場所に進むために、まずはこの町をじっくり探してみよう。」
二人は和光市の街に足を踏み入れた。静かで落ち着いた住宅街が広がる町だが、そのどこかに祖父の遺した「合言葉」の手がかりが隠されている。これが兄妹にとって、初めての本格的な探索となる。
次の目的地がどこかはまだ分からないが、ここ和光市が最初のステップとなる。圭介と奈緒は互いに目を合わせ、小さく頷くと、街を歩き始めた。