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飼い主不在の狂犬たち


 「クソ、普通お前ぐらいの力だったらすぐ殺せるのに」


 クリスはすぐさま調子を取り戻し、俺に悪態をつき始めた。不満がまた取れるというか、漏れ出している。


 「はぁ…斉藤佑樹、佑樹でいいか。お前上のベッドな。下は私のだから」


 そう言ってクリスはベッドに寝転がった。


 上のベッドは上がるのがめんどくさいが、クリスに勝てるわけじゃないので大人しく従っておく。この俺を殺した記憶がどこまでの影響があるのかわかっていないからだ。完全に危害を加えることができないのがベストではあるが、クリスが俺の首に手を当てることができていた点から、俺が死ぬ事に直結する事以外には影響がないのかもしれない。さらに何で俺を殺せなくなるのかもわからない。別に一回殺したら二回目とか関係ないと思うしな。もしかしたら時間制限で働いているのかもしれないけれど、俺には知る術がない。クリスに手伝ってもらうとしてももし死んだら嫌だから。


 「まぁ、クリス。ルームメイトとしてよろしく」


 「…おう、足引っ張んなよー」


 こうして何とかクリスに殺されることなくこのタルタロス監獄に入れた。別に嬉しくもないけどな。しかしこの部屋何にもないなベッドだけだし、飯はどうすんだ?よくある海外ドラマみたいに食堂があるのかな?てか、仕事とかあるよな、普通に考えて労働されられるに決まってるしな。だから足引っ張んなよって言ったのか。


 「なぁ、クリス。飯とか仕事とかどうするの?」


 「飯は食堂で食べる。昼と夜に鐘がなるそん時食べるんだ。仕事なんてもんはない。それどこで聞いたんだよ」


 「いや、俺の故郷じゃ罪人は労働させられるんだよ。じゃあ娯楽品とかどうすんだ?労働しなかったら金手に入らないじゃないか?」


 「はぁ?どうやって娯楽品なんて買うんだよ?マジで異界はちがうなぁ」


 クリスは心底呆れたようにいう。続けて


 「ここの娯楽は酒かセックスだけだ。酒はここで作ってるから全然質は悪いけどな。私は両方とも好きじゃないけどな」


 「そうなのか」


 なかなかにすごいところだな。酒かセックスだけか、酒池肉林ってこうゆう時につかうのか?もしかしたらここで問題さえ起こさなきゃ、静かに過ごせるかもな。


 てか、何で足引っ張ることになるんだ?わけわからん


 ゴーン ゴーン


 急に監獄内に鐘が鳴り響く。


 「おい佑樹、夜の鐘だ。欲しけりゃ行ってこい」


 「クリスは行かないのか?」


 「あぁ、めんどいしな」


 めんどい?飯食うのにそんなん考えないだろ。


 「そう、ところで飯ってどこで食うんだ?」


 「部屋出てから右にずっと行ったらうるさいところがある。そこだ」


 「適当だな。まぁいいけど、サンキュー」


 言われた通り、部屋というか廊下をでて右に向かっていると騒音が鳴り響く部屋に近づいていた。


 しかし、そこから聞こえる音は明らかに食事によって起こるものではなく、怒鳴り声や悲鳴、食器が割れる音だった。俺は恐る恐る部屋を覗くと


 「おい、どけ!」


 「はぁ?俺だって急いでんだふざけてんのか?早く持ってかないとボスにしめられるんだよ!」


 「…やばい、また殴られる…どうにかしてご飯持ってかなくちゃ」


 やばい。誰も礼儀正しくご飯なんて食べてなかった。てか、みんなここで食べるんじゃなくてどこか別のところで食べるようだ。さらにここにいる奴らはあんまり強そうに見えない。どちらかというと虐げられる側の人間ばっかだ。俺も含めて。ところどころに殴られた跡があるやつや、血がへばりついている服を着てる奴もいる。なんかおかしい。


 「ぐぁ!お、お前」


 「持ってかなくちゃ、殺されるんだ!」


 悲鳴の先にはナイフを突き刺していた。そして飯を奪い去っていった。


 「…マズイ、俺ここにいちゃまずいだろ」


 俺は急いで部屋に戻ることを決めた。人が死んだことで、あいつらの少しだけあったブレーキが完全に壊れて、ひどい乱闘になったからだ。あんなの巻き込まれちゃたまったもんじゃない。また死んでしまう。


 俺は息を切らしながら、足音をひどく鳴り響かせながら走る。来る時はなんて事のない道だったはずなのに、今は後ろから壁が迫ってくるような、道が崩れているような、錯覚に陥る。


 「はっ!はっ!はあ、ふぅぅ」


 何とか部屋まで戻ってきた。勢いよく扉を開けて飛び込むように入った。


 「おい、危ないだろ」


 クリスが少し怒りを含んで呟く。


 「すまん。急いでて…」


 急いでいたため、ちゃんと部屋を見ていなくて初めてクリスを見ると、クリスは飯を食っていた。何でかわからないがあの部屋で囚人たちが取り合っていた。飯そのものだった。


 「…?あぁ、これか?めんどくさいから取りに行ってもらった」


 そう、さも当然のようにクリスは俺に教えてくれた。いや、どうやって?どうやったらあんなところから、こんなに早く持ってかれるんだ?そもそも、何で持ってきてもらえるんだ?クリスは。


 「そうそう、飯とれたか?その感じだとすぐ戻ってきたみたいだけど」


 「…取れるかよ、あんな戦場みたいなところから」


 わかってんなら聞くなよ。真面目になるだろ。


 「ははっ、だろうなぁ。やっぱりお前は使えない側だよ。ただの無能ではないけどな」


 「どうやってクリスは飯を持ってきてもらったんだ?」


 「ここは力が全てなんだよ。私は結構ここで名が通っててね、鐘がなる前に持ってきてもらえるんだよ」


 「マジか、そんなのおかしいだろ?それじゃ鐘なんてクリスには関係ないってのか?」


 「そうだよ。私は力がある。当然だ」


 「じゃあ俺はどうすればいいんだよ。力がない奴はどうすんだよ」


 そう、俺は後願するように呟いた。それを聞いたクリスは顔色ひとつ変えず告げる。


 「それはな、力のある奴の下につく事だ。私に飯を持ってくる奴もお前と同じように、力無いものだ。力のないやつは力のあるやつに使われる。当たり前だろ?その代わり守ってやるんだから」


 「はは…」


 乾いた笑いしか出てこない。これじゃインキャルートとか言ってる場合じゃない。ここでは弱者でも基本俺より強いやつしかいないだろう。そんな奴がどうやって守ってもらえるんだ?


 クリスは俺が黙り込んでいるの見て続けていった。


 「何なら守ってやろうか?私が。お前が私に利をもたらすならな?佑樹」


 あぁ…もう無理かも。

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