技術指南として王国に雇ってもらおう
「一体…何をいっているのですか?あなたの能力では助けなどにはなりません。むしろ、足枷しなるのですよ!」
おーおー、今さっきまでほんわかしてたくせに、少し声荒げてきたなぁ。演技するなら最後までしろや。俺みたいにな。
「確かに私の能力では王国の助けになどなるわけがございません」
「そうでしょう、なら…」
「しかし、私が持つ知恵と知識を持って王国に貢献したいと存じます」
「知恵と知識ですって」
スクロースさんも俺のペースにハマり始めてきてるな。これは5回目の時に思いついた手法だ。俺たちが今来ている服はこの国では見たことがない素材や技術が使われている。外の奴らからしたらどうでもいいが、この俺たちを召喚した本人たちなら気づくはずだ。異界の技術力の高さに。今ここで大切なのは俺が本当に知識を持っていることではない。相手にとって必要だと思われるものを持っていると思われること。利用価値を相手に見つけてもらうことだ。
「はい、私たちの世界には能力というものはありませんでした。そのため、力を持たない私たちは技術を持って世界を制しました。車という馬のいらない馬車や、銃という生物に死を与える兵器、さらに私たちは空を飛ぶことさえも可能にしました!」
「そ、空を飛んだというのか…?能力も無しにか?」
お、スクロースさんの隣にいる一番鎧がかっこいい鎧をきてる騎士が乗ってきたな。いい傾向だ。周りの騎士もスクロースさんも少しずつ俺の話に興味が出てきてるみたいだし、このまま畳み掛けますか。
「はい、もちろんでございます。かくゆう私も空を飛んだことがございます」
「何?お前がか?」
スクロースさんは疑いの目を向けてくる。この世界でも空を飛べる能力者は数えるほどしかいない。それなのに俺みたいなほぼ能力なしと同じやつが、空を飛んだといっても信じれないだろう。
「はい、あの雲の上に上がった時の絶景は目を見張るものがありました」
「景色の話など聞いておらんわ!…むう、おいシャーロット殿を読んでこい!」
一番偉いであろう騎士が部下に命令する。
計画通り、いいぞ、7回目に聞いた『嘘を見抜く能力者を王族は雇っている』という話は本当のようだな。ここにきて俺の知識が利用できるかではなく、俺の話が本当かに変わってきた。
「お呼びでしょうか、大佐」
「ああ、忙しい所すまないがこの男を見て欲しい」
「わかりました」
ふむ、これまた美人だな。この世界は顔面偏差値が高いみたいだ。ラノベでよくありがちだけど、俺としては嬉しいね。もしかしたらチャンスがあるかもしれないし。
「おい、斉藤佑樹。もう一回行ってみろ。空を飛んだことがあるってな」
「わかりました。私は空を飛んだことがあります」
言われるがまま宣言する。シャーロットと呼ばれている女は俺の言葉を聞いて、少しだけ眉を動かした。表情に出ないよう訓練でもしているのか、どのように受け取ったのかもわからない。しかし、何かしらの衝撃があったのだろう。
「大佐、この男は本当に空を飛んだようです」
彼女は淡々と言い放つ。しかし彼女の表情は少し違和感と驚きを含んでいた。
「なん…だと…」
「あの大佐殿お呼びすればよろしいでしょうか?私の話を聞いていただきたく存じます」
「お前は軍に所属していない。大佐はやめろ。私の名はバルバロス・ダムストラム。ダムストラムと呼べ」
「承知しました。ダムストラム殿」
俺は深く頭を下げた。
「ところでなんの話をしたいんだ?斉藤佑樹。聞こうじゃないか」
よし、ここまでくればいけるはずだ。こんな中世ヨーロッパレベルとかいう、最もテンプレの設定の異世界なら欲しいものは決まってるからな。
「ありがとうございます。私の話は先ほど例に出させていただいた銃についてです」
「銃とな…?それは結局なんなのだ?」
「銃とは女子供関わらず、所有者を歴戦の兵と同等までに引き上げることができる兵器でございます」
「なに?そんな兵器が存在するのか?」
「はい、私たちの世界では広く流通しており、それ一つで何十人もの人間を死に至らしめることさえもできます」
ダムストラムは慌ててシャーロットの方を確認する。しかしシャーロットは何も言わない。なぜなら嘘ではないからなあ。もし百発百中の凄腕がいるなら、アサルト一つで三十人だって殺すことは理論的には可能なのだから。
交渉というのは、自分をすごく見せ、相手とどれだけ差があるのかを見せつけなければならない。舐められると最後まで舐められる側に回ることになるからな。
「それは異界の人間の常識なのか?」
おっと、この流れはまずいかもな。もし全員から知識を得ようと動かれたら、俺より頭のいいやつとか知識のあるやつが、一人や二人出てくるどころじゃないぞ。自慢じゃないが俺は広く浅く知識を持つタイプだから、専門的なことなんてさっぱりだからな。
「銃の存在という点で言うと常識と言って差し支えないです。しかし、作り方という点で言うと常識ではありません」
「なぜだ?お前以外の共に来た人間は作り方を知らないのか?」
「限られたものしか銃の構造を知りません。ましてや作ることなど一握りです。もし貴方様が私以外から知識を得ようとお考えになっているのなら、おやめになった方がいいでしょう。樽一杯のワインに一掬いの泥水が混じるとそれは全てが泥水になるように、知識も半端なのもが混じるとただの妄言にもなりうるのですから」
「ほう…なかなか言うやつだ」
嘘はついていないはずだ。これでダムストラムは俺をとりあえずは保留ということで、城においてくれるだろう。しかし、あのシャーロットという女は、俺の生活において最も警戒すべき人物であることには間違いないな。
「私では判断しきれん。しばし待て、斉藤佑樹」
そう言ってダムストラムはシャーロットや複数の騎士を連れてどこかに行った。そして部屋には数人の騎士とスクロースが残っていた。
「斉藤佑樹様はこちらに来てください」
俺をまた別の部屋に案内しようとしている。ここから先は何が起こるかわからないが、最悪の展開にはならないだろう。異界の知識という特大の餌を見せているのだから。