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クレイフィザ・スタイル ―デイジー―  作者: 一枝 唯


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第7話 いろいろ間違っています

 ――で、とライオットは言った。


これ(・・)、なに」


「ですから」


 トールは咳払いした。


「〈レッド・パープル〉の最新リンツェロイドで、〈デイジー〉です」


「で」


 彼はまた言った。


「何で他工房の最新型がここに? 俺、いじっていいの?」


「駄目ですよ。マスターの」


 お嬢さんなんですよ、という説明は避けることにした。


「……お客さんだと思ってください」


「ロイドが?」


「彼女のマスターが、うちのマスターの知り合いなんですよ。知人のお子さんを預かったと考えてもらってもいいです」


「何言ってんのさトールちゃん。ほんとに『お子さん』ならともかく、他工房の最新型なんて」


 ライオットは片手を振った。


「スパイだったらどうすんのお?」


「はっ?」


「〈クレイフィザ〉の最新データを盗んでこい、とかさあ」


「それこそ『何を言っているのか』です、ライオット」


 トールは顔をしかめた。


「〈レッド・パープル〉の作品は明らかにうちと傾向が違いますし、ミズ・サンダースはマスターの後輩だとかで」


「ミズ!」


「はい?」


「女?」


「普通、ミズと言ったらそうですね」


「あはははは」


「な、何ですか突然」


 笑うところと思えないのにいきなり笑う、トールは一瞬、ライオットのトーク機能にバグでも生じたかと思った。


「だって、ほら、あれみたい」


 ライオットはにやにやした。


「別れた恋人がしばらくぶりに現れて、『あなたの子よ』って子供を押しつけてどっか行っちゃう、っていう」


「……ちょっと笑えないです、ライオット」


 半分くらい正解と言えそうだ。店主同士の関係は先輩後輩以外に判らないし、デイジーは「子供」ではない。約束は数日間ということだが、押しつけられた感は否めない。


 いや、そう感じているのはトールである。


 と言っても、サラ・サンダースからではなく、彼のマスターから押しつけられたと。


「そういうことではなく。彼女に、しつこいフェティシストがまとわりついてるようなんです」


 トールは説明したが、ライオットは首を振った。


「そんなの、〈クレイフィザ〉に……いーや、うちのマスターに預ける理由にならないじゃん」


「それはそうなんですけど。マスター同士が決めたんですから、僕らが口を挟むことでは」


「納得してんの? マスター」


「預かることは預かるようです。ただ、世話はみんな僕に投げられましたが」


「あはははは」


 ライオットはまた笑った。この笑いは意味が判る、とトールは思った。


「まあいいや。数日間、ラボの管理を厳重にしとけばいい訳ね」


 スパイ説を採っているのか、ライオットはそう言った。


「で、何だっけ?」


 と金髪の青年は改めてデイジーを見た。


「夢の泉!」


 大人たち、先輩たち、言うなれば「遠い親戚のお兄さん」たちのやり取りが一段落するのをおとなしく待っていたデイジーは、そこでまた言った。


「あると思う? ライオット」


「夢の、何だって?」


「そういう歌があるんですよ」


「歌? あ、この子シンギングロイド?」


「機能のメインではなさそうですが、並みのシンギングロイドくらいの性能はあるんじゃないかと」


「もう一度、歌う?」


 少女――の形をしたもの――は、ひょこっと首を傾げた。


「ライオット、聞く?」


「ふうん?」


 彼はしげしげとデイジーを眺める。


「最新シンギングロイドか。エミーと比較してみたいな。声聞く限りじゃ、プラチナフェスタ製品で出力してるみたいだけど。歌と喋りとで出力ハード変えるのも流行りだよね。俺はそういうの、好きじゃないけど」


 ライオットは両腕を組んだ。


「デイジー。仕様」


「――リンツェロイド-LJ、version5.7、個体識別番号LJ-K1B3YS、固有名〈デイジー〉、製作者サラ・サンダース、製造年月日……」


「そういうのはいいよ。出力機種を訊いてんの」


 少女の「自己紹介」を遮ってライオットは尋ねた。それにも少女はぺらぺらと返事をする。ふうん、とライオットはじっと耳を傾け、一通り聞くと満足したように笑った。


「なあんだ。大したことないね、最新なんて言っても」


「よいハードを使えばよいロイドになるとは限らないでしょう」


「そのっとーりだよっ、トールちゃんっ」


 ライオットは拳を握り締めた。


「俺が言うのはまさにそれ。がわ(・・)ばっかいい素材にしてもさあ、活かせなかったら意味ない訳よ。素人に最高級の材料渡して、奇跡の料理が出てくると思う? むしろあれよ。何でもない石ころを宝石に変えてこそでしょ?」


「言いたいことは判るようですが、ライオット」


 トールは淡々と言った。


はな(・・)から宝石を用意できるのであれば、石を変えなくてもいいのでは」


「宝石なら何でもいいってわけじゃないでしょー」


 手を振って彼は笑う。


「ま、売り物としてはさ、がわ(・・)も必要、性能はもちろん重要、アピールするとこはアピールしてさ、嫁に出さなきゃね」


「嫁……」


「デイジーさ、お婿決まった? このトールなんてどうよ?」


「いろいろ間違っています、ライオット」


 頭痛をこらえるように額に手を当ててトールは言った。


「どれくらい」


「そうですね。三つくらいでしょうか」


「三つのうちのラスワンは何よ」


 ひとつ、購入者とリンツェロイドは結婚する訳ではないということ。ふたつ、リンツェロイドがリンツェロイドのマスターになるなど、有り得ないということ。三つ――。


「ミズ・サンダースには、デイジーを『嫁』に出す気がない」


「え、売り物でしょ?」


 ライオットはまばたきをした。


「おかしな男につきまとわれているので彼女を隠すというのが動機のようですが、それならさっさとほかに売ってしまえばいいと思いませんか?」


「いいオトコがいないんじゃないの。まあ、男じゃなくてもいい訳だけど」


「確かに〈レッド・パープル〉の審査は厳しいらしいですね。ですがそれでも希望者がいるから、審査を緩めないんでしょう。普通なら、性癖テストの結果を提出してまでリンツェロイドを買いたいとは思わない」


「だから。そのなかに〈レッド・パープル〉のお眼鏡に適うマスター候補がいなかったって」


「どうしてそこまで厳しくするのか」


 トールは肩をすくめた。


「ミズ・サンダースは、ミスタ・ギャラガー以上の子煩悩(・・・)なんじゃないかと、僕は思うんです」


「へえ」


 ライオットは面白そうな顔をした。


「まあ、判らなくもないよ。だから審査が厳しいって訳だ。でもそれだと堂々巡りだよ、トール。俺は、その厳しい審査に誰も通ってないだけじゃないのと言ってるの」


 「審査が厳しいから誰も通らない」のか、「誰も通さないために審査が厳しい」のか、答えは彼らには判らないことだ。ふたりはその話題をやめた。


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