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やさしい男に俺はなる!  作者: 石井よろづ
異世界理解編
2/4

第一話 閻魔様も鬼もいないあの世なんて

 ―――状況を整理しよう。


 俺こと郡上やさおは死んだはず、だよな。あんまり確信はもてない最期だったけど。

 でも尋常ならざる痛みを経験したんだ。あの状況下で生きているとしたらそれはもう超人か、もしくはよっぽど運のいい奴か。

 だとすれば今の現状は何だ。あ!もしかしてこれは夢か?いやー、まてまて錯乱するな落ち着け俺。死んだ人間が夢を見るってのか?そんなことがあり得るのか?そもそも俺はあんまり夢を見ない質の人間だし、夢ってこんなにもリアリティがあふれているのか?普段あんまり夢を見ねぇから分かんねぇよ。

 ぐるぐる思考がループするも、結論なにも分からずで、でもわからないからまたループして、結果また分からないを繰り返す。


「お兄ちゃん本当に大丈夫?」


 俺の悲痛なうめきはどうやら口から洩れていたらしい。


「あ、あぁ。うん。大丈夫。だいじょうぶ」


 正直言うと全然大丈夫じゃない。これがもし一人だったとしたら喚き散らかして泣いていたかもしれない。子供の外見だからギリ許されるだろう。


 そう、俺がもう一つ意味が分からないのがこの体にある。

 先程から、弱った俺を支えるようにそっと背を擦ってくれている少女こと、俺の妹ミニアは、身長が低く体つきもまだほっそりとしており、顔もあどけなさを残す。どこからどう見ても十歳ぐらいの子供だ。ついでに言うとこの年にしてはなかなかの美少女だと思う。

 まぁとにかく客観的に見てそんな小さな子と、俺の目線はそう変わりない。

 つまり!俺は!なぜか!子供に!なっているのだ!!!これが混乱しないでいられるか!?

 本来の俺は二十七のいたって健康な成人男性だったんだ。自慢じゃぁないが身長だって百八十オーバーを記録していたというの、こんなにも視界が低いのは一体何年ぶりだろうか。何もかもがでっかく見える。

 なおも混乱は続くも、泣かないのも喚き散らかさないのも、偏ににミニアのおかげだったりする。この子の小さな手から伝わるほの温かい体温が服越しに俺に伝わってくる。

 まるで、大丈夫だよ。と言わんばかりに。


 あれからしばらく歩いて気付いたことがある。都会田舎、なんて可愛いものじゃなく、ここは日本じゃないのかもしれないってことに。

 だからといって西洋風かと聞かれても、首を振ってYESとも言えない。微妙に違うんだよな。

 ただ見たことはあるんだよ。日本人にとってはお馴染みの某アニメ映画の背景がこれに近いと思う。ほら、代表的なあのアニメ映画だよ。皆まで言わないが。


「あ!お兄ちゃん村が見えたよ!もう少しだから、がんばろっ」


 ミニアが嬉しそうに指さす先には、確かにいくつかの建物が建つ、人が住居として使用している集落が見えた。

 ふと、一陣の風が吹いた。それと同時に何かの甘い香りが香ってくる。


「ソレイニアのお花。もう咲く時期だったんだね」

「ソレイニアの花?」


 ほらあれだよ、とミニアは少し先に視線をやったので、俺もその方角に視線を向ける。

 そこには木々に囲まれながらも、人の手によって整地された広場があった。その奥の花壇に数本だけ目立つ存在がある。凛と立つ、白く大ぶりの花。きっとあれが。


「あの真っ白なお花がソレイニアのお花だよ」

「あれが、ソレイニアの花……」

「そう。……≪気高くも清らかな、けれど何人をも受け入れ慈しみの心を持つ美しき聖女・ソレイニアの花≫。お花たちの女王とも言われているんだよ」

「へー」


 確かに不思議な魅力がある。花の事は全く分からないし、これまで興味を持った事もないけど、確かにあの花は美しいと思う。近くもない距離からこうも言い切れるのだから間違いはないだろう。

 でも、だったらなんで。


「なぁ、だったらあれ単体で咲かせた方がいいんじゃないか?よくさ交配がどうのって言うじゃん(ゲームの知識だけど)」

「んー、あたしもよくは知らないけど、ソレイニアのお花は、ソレイニアのお花だけで咲かせてもすぐに枯れちゃうの。だからああやっていっぱいのお花に囲まれてるんだって」


 またまたへーである。

 世界ってのは広いもんなんだなーと思うも次に瞬間には、いや俺ここの事何にも知らねぇし、と考えをあらためた。


 再び歩き出す俺達。

 その度に気付く自然の息遣い。

 都会のビル風とは違う何にも邪魔されない風の道に、忌々しいアスファルトがない大地の道、水たまりってのは人が処理するんじゃなくって土が吸ってくれるんだってのは知っていたようで知らなかった。おいおい、こんなどろどろの道を歩いたのは生まれて初めてだぞ。

 公園では人が怪我しないように整えられていたが、ここではあちこちに石が転がっている。

 カーンカーンと遠くで鳴る低い音。少なくともこの音は自然が出す音ではない。ならば誰か人が鳴らしているのだろう。


(都会でこんな音鳴らしたらうるさい!って言って苦情がくるぜー)


 なにはともあれ集落もとい村はすぐそこだ。

 おかしいよな。俺は≪俺≫の家を知らないのに、足が自然と進んじまうんだ。んでもって、ミニアもそれを止めたりしない。つまり家の方角はこっちだって体はわかってるんだ。俺は知らないのに。

 俺が体調不良とレッテルを張られているという事を加味しても、子供の歩くスピードなんてかわいらしいものだ。

 ミニアもミニアでこちらを気遣ってあまり話しかけてこない。チャーンスとばかりに、再び思考を深く沈めてみる。


(死んだはずの俺が生きている。それもこんな小さな体でだ。ありえるのか?いや普通に考えてありえないが、あ!ひょっとして、実はここはあの世だったパターンか!いやー、だとしたらえらくファンタジーチックなあの世だな。日本っぽくはないが、日本のアニメ映画っぽいし。ミニアもよくよく見ると日本人とは骨格が違う気がする。なんていうか、鼻が高いというか、何より金髪だし。今どきの子はこんななのか?)


 こう考えている間も歩みを止めることはなく一歩一歩確実に村に近づいている。

 けれどその行く手を阻むように大きな川が見えた。そこには日本でこれを建設しようものなら国から大目玉を食らってしまうであろう、そんな手作り感満載な橋がさも渡ってくれ!とばかりに威風堂々とかかっている。

 死ぬ前の俺なら、その手作り感に不安を覚え進むのをためらっていたが、今の俺にはそんな感情はなかった。なぜなら俺は橋の存在に気付いていなかったから。


(あの世、だと仮定して、だ。つまりあの世には閻魔様も鬼もいないってことだったんだな。そりゃ信じてたわけじゃねぇけど、なんというか、夢というか、ロマンというか。ネッシー感覚なんだよなある意味。居て欲しかった三割、遠くから見てみたかった七割ってところか)


 川の流れはゆるやかにおだやかに進んでいる。平和な時間を象徴するように。


(ミニアもどっかで死んじまった子ってことだよな。こんなに小さな子が……ん?だったらおかしくないか?この子がこの年で死んだとしたら、なんで俺はこんな小さな体であの世に来てんだ?)


 カエルと競争したらギリ勝てる、それぐらいのスピードで橋を渡り切った俺達。もう村は目前だというのに俺は何一つとして安心できないでいる。

 ひょっとして、いやでも、そんなまさか。さっきから頭の片隅にある可能性をもっとずっと、ぎゅっと奥に追いやる。それでもほんの少しの隙間からひょっこり顔を出す二文字。

 そんな馬鹿な。そして橋を渡り切ってもなお、俺は橋の存在に気付かないでいた。


「お兄ちゃん!どうしたの、お顔が真っ青よ!」


 俺が気づくよりも先にミニアが気づいてしまった俺の顔色。他人から見て真っ青だったらさぞ怖いだろう。

 さっきよりも体調が悪化したのをミニアは感じ取ったのか、より強く俺を支える。けれど少女の力では同じ体格の俺を支えきることはできなかった。

 俺は力なく崩れ落ちる。あの時と同じように膝から。

 ミニアは必死に俺に呼びかけるも、その声に返事をすることができない。胃の中がむかむかする。

 開けてはならぬパンドラの箱。俺は確実にこの箱に手を伸ばしてしまったのだ。


「どうしたんじゃっ!!」


 迫力のあるしゃがれた声が俺の耳に届いた。その声には妙に聞き覚えがある。

 けれどこの時にはもう、俺に何かできる程の気力は残っていなかった。


「ゼ、ファ……ロ、さ………」


 この時、誰の名を呼んだのか、むしろ俺の口から出た言葉は誰かの名前だったのか。答えのわからないまま、俺の視界は暗闇にのまれていた。









 ―――やさしい男になりなさい。


(ゆめ?かあさん……?でも、なんか、ちがうきがする)

(あなたはだれ?おれは、ここは、どこ)

(おれ、まざこんだったのかな。なんだか、かえりたいや)

(ごめんかあさん。ひとりぼっちにしちゃって。でも、おれ)




「目を開けてちょうだい!ヤサオ!!」


「………え…?」


 誰かの、強い声と願いに押されるように俺は夢から覚めた。

 視界が広がる。暗闇が一斉に引いていく感じ。

 完全に視界が戻った時、そこはわずかばかりの明かりが灯る建物の中だった。どうやら俺はここのベッドに寝かされていたようだ。ずっと同じ体勢でいたせいか、背中にじんわりこもっている感じがする。


「ヤサオ!よかった。ほんとうに、よかった…」

「えっ……なんで、うっ」


 抱擁は突然に。

 こちらが何か発する前に瞳を潤ませた見知らぬ金髪の女性に抱きしめられてしまった。ぎゅうぎゅうと、強く。けれど痛みがないように優しく。頭に回された手が、かすかに震えているのに気付いた。

 女性は何度も自分を納得させるかのように、よかった、よかったと呟いている。


「あ、えっと、ごめんなさい心配かけて「ヤサオー!!」はいっ!」


 この人に心配をかけてしまった。なぜかそのことで胸が痛んだ。

 やましさは一切なく、せめて抱きしめ返して安心させようとしたその時、その場の空気をぶち壊す勢いの声量が響いた。いや、まじでやましいことは一切ないんだって!


「気分はどうだ!どこか悪いとか、吐き気がするとか、ああいや、お腹がすいたとかでもいいんだぞ!何かないか?」


 声を出した男性は日本ではあまりお目にかかれない大男だった。そりゃこの体格から出た大声はかなりの大声になるわな。

 男泣きを隠そうともせず、目頭からも目じりからも大粒の涙をこぼしている。その顔のドアップはなかなかきついので、もう少し下がってくれるとありがたいです。


「とくには、なんにも、あのさっき「お兄ぃちゃぁぁん!!」はいっ!」


 今度はミニアの来襲。てかさっきもこの展開あったな。

 ミニアは男性と同じく大号泣と、プラスして鼻水も垂れ流し状態だ。おいおいかわいい顔が台無しじゃないか。というか、人間出そうと思えばこんなにも顔面の汁が出るもんなんだな。

 妙に感心してしまった俺。


「心配かけてごめんなさい。ちょっと疲れてただけだよ」


 女性も男性もミニアもこちらを見る。俺はこの人たちのことを知っている。呼び方も関係性も。だからこれで正解なはず。


「もう本当に大丈夫だよ。ミニア、母さん……父さん」


 ――父さん。俺が人生で初めて放った言葉。

 俺の人生には一切出てこないと思われていたのに、まさかこんなところで使うこと位なろうとは、人生分からんものだ。

 変に緊張してしまったせいか、言うのに一瞬ためらってしまったのは許してほしい。


「ううん、いいのよ。ヤサオが無事だったならそれでいいの。ね、本当に何にもないのね?無理せずちゃんと言って。あなた!匙師様を、ユリーン様を呼んできて!この子が目覚めたって伝えて!」

「ああ分かった!ヤサオ、父さんはユリーン様を呼んでくるからな。ちょっと待っててくれるな?」


 それだけ言い男性は…父さんは外に走っていった。閉めた衝撃で扉のねじが飛んだのが見えたけど、俺は大人なので見ないふりをする。

 すると、タイミングを見ていたのかそそそとミニアが近寄ってきた。


「お兄ちゃん、もういいんだよね?もう倒れないよね?ねぇ手をつないでもいい?邪魔しないから!」

「……うん。もちろんいいよ。ミニアごめんな。びっくりしただろう、兄ちゃんが倒れるから」

「いいの!お兄ちゃんが目を覚ましてくれたから、あたしはそれで、いいの!」


 ミニアはその小さな両手で、俺の右手を優しく包んだ。逆に俺を抱きしめていた女性、母さんはそっとその場を離れ、大きな瞳にたまった涙をぬぐっている。

 どれほど心配をかけてしまったのだろう。さじし?とやらを呼びに行った父さんだって大号泣してたし。とはいっても意識を失った理由は俺にもわからないし、いや、もしかしたら気付きたくない事実に、脳内のキャパシティがオーバーしてしまったのかもしれないが……きっとそういうことなのだろう。


(それにしても)


 あの夢。

 あたり一面が乳白色に近い、なんともむず痒い色合いでなされた独特の空間。俺はあそこでただ存在しているだけだった。時間に流されることもなく、ふわりふわりとその場で漂っているだけだった。

 その瞬間、俺は《俺》の体だった。この小さな体じゃなく、郡上やさおの体だった。鏡で見たわけじゃないし誰かが教えてくれたわけじゃないけど、生まれてこの方あの体でやってきたんだ、間違えるわけがない。馴染む、というよりも、はまるという言葉がぴったりだった。

 そこで俺は誰かの声を聞いた。言われた言葉は間違いなく母さんが言っていた言葉だったのに、声は母さんじゃなかった気がする。もっと年若いような、すっと耳に馴染むなんとも不思議な声。

 何か会話をしたと思うけど、残念ながらそれは覚えていない。俺はあの時、なんて答えたんだろう。


「ヤサオ!ユリーン様をお連れしたぞ!」


 ぼーっとさっき見た夢を思い出していた丁度その時、扉を蹴破らん勢いで父さんが登場した。さながら魔王城に到着した勇者のようだった。そしてこの登場のせいで扉は完全に虫の息となった。

 父さんの逞しすぎる肩には、その身を隠さんとばかりに黒いローブを頭から羽織っている小柄な人が米俵のように抱えあげられている。

 そんな扱いに慣れているのか、ローブの人は身じろぎどころか悲鳴一つ上げやしない。


「ああああなた!ユリーン様になんてことを!」


 それを見た母さんは慌てて父さんからローブの人、ユリーン様をひったくった。その動きのまぁなんと速いこと。この小柄な体のどこにその驚異的な瞬発力を隠し持っていたというのだろうか。父さんもよほど驚いたのか、抱えた体制のまま固まってしまっている。おお、これが噂に聞く、母親最強伝説というやつか。

 かあさんはそんな父さんのことを気にも留めず、ローブに包まれているユリーン様を救出するべく留め金を外している。

 留め金も外れ素早い動きでローブを回収する母さん。

 さてここで疑問だ。自分がこんな扱いをされているというのに、なぜ悲鳴の一つも上げないのか。早い話気絶していたのだ。確実に父さんの無茶な運び方によって。


「ああ!ユリーン様!」

「もっ申し訳ありませんユリーン様!どうかお目覚めください!この通りです!」


 母さんは慌てて近くに置いてあった濡れタオルでユリーン様の顔を拭く。桶の中にあったことから、俺用に準備されていたものだったに違いない。その横では、大きな体を縮こまらせ両手で謝罪のポーズを繰り広げる父さん。

 あはは、と呆れの笑いが出たが、この隙にユリーン様のお顔をじっと見る。気絶しているところ悪いけど、人の顔をまじまじ見るのってそう機会がないからな。

 ユリーン様は年若い女の人だった。女性というほど大人びていないし、だからというってミニアのように少女というほど幼くもない。この場合は青少年というべきが正解かもしれない。

 日焼けとは無縁とばかりの白い肌、そこに足跡のように散らばる特徴的なそばかす。髪は紫とピンクの間というのか、なんというのか、おしゃれとは無縁だったもので、奇抜な色としか言えない。髪質は癖が一切ないさらさらすとんって感じで、おかっぱのような髪型(後にボブと判明した)。気絶してるから当然っちゃ当然だけど、瞳の色までは分からない。

 俺の体調はもう十分回復したので、ベッドから立ち上がろうとすると、その動きを察知したミニアがすかさず「お兄ちゃんはまだ寝てて!ユリーン様が起きてもいいですよって言うまで寝てて!絶対だよ!」と、その風貌に似合わぬほどの力強さでベッドに沈めてきたので、俺は再度ベッドの住人となった。どこの世界でも女性は逞しいのだ。




 ユリーン様はほどなくして目を覚ました。最初に発した言葉が「ここはどこじゃ?私は誰じゃ?」だったので、俺は危うく吹きそうになった。なんていうか、ここでもそのセリフが聞けるんだってひそかに感動したというのもある。


「うん、もう問題はないな。起き上がってもよいぞ」


 匙師、ユリーン・スプーン。彼女はこの村にいる医者のような役割を持つ人だった。あくまでも医者のような、であり厳密にいうと医者ではないそうだ。というかこの世界には医者という職業は存在しないらしい。

 俺の持てるすべての演技力を駆使し、体調が悪いふりをして聞き出した情報だ。間違いないだろう。もっとも突然そんなことを聞いたので、母さんにはかなり心配されたが。

 ちなみに医師とも聞いたが「イシャ?イシ?んー、石なら知っておるが、そのイシャというのは知らんのぉ。なんじゃおぬし、そのイシャというのを食ったのか?」と言われてしまったのでここまでである。俺の聞き取り調査はなんとか終了した。

 診察のために脱いだ服を再度着なおすと、それを見届けたユリーン様は俺たち家族に問いかけた。


「問診でも聞いたが、いきなり気持ち悪くなった、と。ふん。直接の原因はしっかり検査しておらんから分からんが、その気持ち悪くなった、というのが引っかかる。ヤサオ、何か心当たりはないのか?本当にイシャもイシも食うておらんのだな?」

「た、食べてないですよ。当り前じゃないですか」


 俺は慌てて否定する。俺は医者も医師も言葉を知っているから、白衣を着たその人たちをぼりぼり食べる俺を想像してしまった。

 それに実際に何かを食べて気持ち悪くなったわけじゃないから嘘じゃあない。ちょっと心当たりはあるけど。


「んー、じゃとしたら私にできることはここまでじゃのう。一応薬は煎じておいたから、こんばんはこれを飲ませておくとよい。私はこれで失礼するが、また何かあったらすぐに言いに来い。ただ、ガレンよ。もうあんな運び方をするでないぞ」

「は、はい。面目ないです」

「まぁったく、おぬしは家具職人としてとしての腕前は間違いなく一級じゃというのに、なぜそれが対人となると大雑把になるんじゃろうなあ。()()()よ、お主も苦労するな」

「まぁユリーン様ったら。ふふ、それでもこの人とっても優しい人なんですよ。ちょっと雑なところはありますけど」

「ふふ、いらぬ心配であったか。それでは、私は帰るとするぞ。またな」


 そう言ってユリーン様は、広げていた診察キットをしまい黒いローブをすっぽりかぶり出て行った。

 家族が「ありがとうございました」と頭を下げる中、俺はさらに混乱の渦の中にいた。


 トキコって今ユリーン様言わなかったか?どうなってんだ。だってトキコって、《俺》の母さんも()()()なんだぜ!?




完結までは続けたい。

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