貰っているもの
マリーが持ってきてくれたハーブティーを飲む。少し落ち着かない様子だったディオンは飲んで一息吐くと、緊張したような微笑みを浮かべながら口を開いた。
「フィア、お願いがあるんだ」
「どうしたの?」
真剣な顔で見つめてくるディオンに聞き返す。ディオンは深呼吸をしてから話し出す。
「今度、魔力循環不全漏出症の症状に対応する新薬ができるんだ。その治験に協力して欲しい」
その言葉に驚く。ディオンがいつも言ってくれていた『私の病を治す』、その言葉を疑っていたわけじゃなかった。でも、早く進行していく病に間に合うのだろうかと不安に思う気持ちはどうしても消えなかった。
「今まで、魔力欠乏症の薬をとりあえず服用していただろう。魔力欠乏症の薬は魔素の魔力変換を促す薬だ。でもフィアは問題なく魔力変換はできている。ただ体内器官に対して魔力供給が少ないから、魔力自体を増やすために飲んでいた。新薬はそうじゃない。体内器官への魔力供給を促すようになっているんだ。この薬を使えば、フィアの症状も今より楽になると思う」
ディオンが頑張ってくれていることは分かっていた。でも、怖かった部分もあった。
それなのにディオンはいつも、私の想像以上に私の事を考えていてくれる。
「モルモットへの投与実験も研究室に局所加速装置があったから、ちゃんと終わってる。副作用も重くはならないとみてる。でも、治験に協力するかどうかはフィアが決めてくれていい。ダートン様もフィアの意志次第で決めていいと言ってくれてる」
今だって私の意志を尊重してくれている。全て私の為にやってくれていることなのに。
立ち上がろうとすると、ディーが近寄ってきてくれる。
「どうしたの、フィア?」
そう言って差し出しされた手を掴んで立つ。そのままディーに抱き着いた。しっかりと鍛えられている体は、私をお姫様抱っこしてみたい、と言って鍛え始めた。そんなのどう考えても私をいつでも運べるようにするためなのに、俺がしてみたいんだ、だからフィアがお姫様抱っこされたくなったらいつでも言って、そう言ってくれている。
今回のことだって、私の為にしているのに私には強制しない。そんな気遣いが嬉しい。ディオンが私の為にしてくれることはいつだって嬉しい。
私はディオンからいつも嬉しいことを貰うばかりだ。
「もちろん協力するわ。ディー、ありがとう」
精一杯抱き着く。感謝の気持ちが少しでも伝わってほしい。すると、ディオンからも優しく抱き締め返される。
「俺の方こそありがとう、フィア。協力してくれて」
「ううん、私いつも貰ってばかりだわ。ディーから嬉しい事を貰うばかり」
そう言った私にディーは少し腕を緩めると、私の顔を上から覗き込んで目を合わせる。
「そんなことないよ。俺はね、フィアが一緒に居てくれるのが一番嬉しくて幸せなんだ。俺の方こそフィアから貰うものばかりだよ。刺繍した作品も、押し花で作ってくれた栞、万年筆とかね。どれも1番の俺のお気に入りだ。それに物だけじゃない。嬉しい気持ちも幸せな気持ちも、フィアから一番いっぱい貰ってるんだ。俺の幸せはフィアが幸せに日々を過ごすことだから」
晴れた空色の瞳が煌めきながら、私の若草色の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。
愛しそうに緩むその目からも、私の事を大切だと伝えてくるディオンに私の目は潤む。
「私もだよ、ディー。ディーの幸せが私の幸せだから」
心があたたかさでいっぱいになってそんな言葉しか返せない。
「ありがとう、フィア。フィアの気持ちもいっぱい伝わってるよ」
優しく微笑んでくれる貴方に私も自然と笑みが浮かぶ。
サンルームの外では風が吹いて、咲き誇る花々が優しく揺れていた。