―輝き―
どのくらい経ったのだろうか。時の流れがとても遅く感じる。
――早く帰って研究しないと……。
残っているのは、フィーリアに対する想いだけ。
そうだ、この夜会もフィーリアの為なんだ。……だから、まだ立っていられる。
静謐を満たした空間に、重い扉の開閉音が響き渡る。やっとだと感じ、王女をエスコートしなければと腕を伸ばしかける。
『ディー』
嬉しそうに俺の腕に手を伸ばして笑う今よりも幼かったフィーリア。
大人になったみたいだと笑い合って、その側を離れることなど考えもしなかった。
一度、目を閉じる。
目の前にいるのは白金色の髪と二色の色を持った瞳のアデライン王女殿下だ。
感情など……消えてしまえばよかったのに。フィーリア以外の女性をエスコートしなければならないなんて……。
小さく息を吸って吐く。
感情を殺して腕を差し出す。慎重に添えられた手は知らない重さだった。
重苦しい扉が開いていく。その中にある喧騒が漏れだして、周囲を取り込んでいく。
王宮の役人に指示されるまま、アデライン王女殿下をエスコートして歩みを進める。一歩一歩を踏み出すのが、重い。
光の中、もう戻れない場所へと歩いていく。
俺とアデライン王女殿下が登場したと同時に、喧騒は一瞬止んだ。
静寂に包まれたホールはすぐにざわめきを取り戻す。そのざわめきは先程の楽しそうな様子とは違い、猜疑を含んだ視線と戸惑いが見て取れた。
その中をゆっくりと歩いて壇上の中央にいるオズウェル第二王子殿下の元へ向かう。
オズウェル第二王子殿下は相変わらずの感情が読めない笑みを湛えていた。
「さて、皆に聞いてもらいたいことがある」
よく通るオズウェル第二王子殿下の声に、ざわめきが止む。
「我が妹のアデラインがこの度婚約する運びとなった」
その先に続く言葉を想像して、歯を食い縛る。
――俺は……ずっと、ずっと……フィアの婚約者でいたかったのに……!
けれど、フィーリアを守る為だ。必死で沈黙を守る。
「相手はこちらにいるディオ」
「お待ちください!」
可愛らしいけれど、芯の通った声。ここにいるはずがない、愛しい人の声。
オズウェル第二王子殿下の話を遮るなど不敬だとの声が聞こえる。
やめてくれ。
ここにいるはずがないんだ。フィーリアが夜会に出るなんてありえない。だって夜会には準備がたくさんいるし、夜会用のドレスだって色んな装飾をつけるから重たいんだ。そんなドレスを身に着けたら、フィーリアの体調は悪くなってしまうに決まっている。
フィーリアが元気になったり夜会に行きたいと言ったらと、ダートン様がフィーリアに内緒で毎年夜会用のドレスを作っているのは知っている。俺だって賛成してデザイン等に少し関わらせてもらったから。
けれど、いるはずがないんだ。
裏切った。傷つけた。
俺が深く、フィーリアを傷つけたのに。
なのに。
――フィアの声を俺が聞き間違えるはずがない。
そうだ。何よりも大切で愛しいフィーリアの声を、聞き逃すはずがない。
アデライン王女をエスコートするために曲げていた腕から力を抜く。それだけで王女は手を外してくれた。
ゆっくりと顔を上げて声がした方へと向く。
そこには、見慣れた蜂蜜色の美しい髪を綺麗に結い上げ、俺が選んだブルーグレーを基調に挿し色には水色を使ったドレスを纏ったフィーリアが凛として佇んでいた。
俺は息を呑んで、フィーリアを見つめる。
フィーリアの強い意志の籠もった若葉色の瞳が、優しく俺を見つめ返す。
華やかな会場の中で、フィーリアは誰よりも輝いていた。
読んで頂きありがとうございます。
年内に終わらせると言っていましたが無理でした……。
申し訳ありません。ギリギリまで粘りましたが全然間に合いませんでした。
来年の早い内に終わらせるように頑張ります。
今年も読んでもらえて嬉しかったです。
来年も頑張りますのでよろしくお願いします。
よいお年をお過ごしください。




