―戻らない選択―
靴の音が厳かな王宮の廊下に響く。
なんの感慨も湧かない音に、違った種類の靴音が混じった。
廊下の先から響くその音に目を向ける。
そこにいたのはアデライン王女殿下だ。
着飾っているその姿を見て、今日の夜会に参加するのだと理解する。
オズウェル第二王子殿下はこの夜会で俺とフィーリアの婚約を破棄させ、そしてアデライン王女殿下との婚約を公表するつもりなのかもしれない。
しかしダートン様が言っていたとおり、国王陛下の承認されている婚約を破棄した上での婚約だ。国王陛下がいない中でのこの行為は......謀反だ。
だというのに、夜会で公表する意味はなんだろうか。参加した貴族達はその危険性に気づくだろう。国王陛下がいない場で新しい婚約の発表がされるなど、前例がない。
――......考えても仕方がないことか。
考えても、もう......隣にフィーリアはいないのだ。
国王陛下が戻られた時、この婚約騒動事態が白紙にされたとしても......婚約破棄を願った俺が、フィーリアの隣に何食わぬ顔で戻ることなどできない。
――俺にできるのは......フィーリアの病を根治させること......。
俺に残っているのはフィーリアが生きて元気でいてくれるように、という想いだけだ。その為なら、なんだってできる。
色褪せた視界の中で、アデライン王女殿下がオズウェル第二王子殿下の前で止まった。
「アデライン、お言葉どおり参りました」
そう言ってカーテシーをするアデライン王女殿下に、オズウェル第二王子殿下は何も読み取れない表情で頷く。
「……ああ。この者が、お前の相手となるユーフィリウム侯爵家次男のディオンだ」
手で示された俺は頭を下げる。
「ディオン・ユーフィリウムと申します」
一度会ったことがあるので、名を言うだけに留める。その他の言葉は紡げなかった。
「アデライン・リリム・フィオールですわ」
俺にもカーテシーをして挨拶したアデライン王女殿下を見たオズウェル第二王子殿下は、夜会が行われる大ホールへの扉の前に立つ。
「アデライン、ディオン。合図をしたら入って来い」
「はい」
感情なく声を返す。王女殿下をエスコートして出てこいということだろう。
「わかりましたわ」
アデライン王女殿下は以前も見た何も悟らせない優雅な微笑みを湛えていた。
オズウェル第二王子殿下が扉を開ける。
開いた扉から聞こえてくるのは、華やかな声や音。フィーリアと一緒には、一度も参加していない大きな会。
元気になったら俺と一緒に夜会に参加したいと、照れながら未来への展望を言ってくれたフィーリア。
その願いを叶えてあげられなかった。
楽しそうなざわめきを聞きながら、会場から零れる眩しい光に目を細めた。
――もう、戻れない。
読んで頂きありがとうございます。
更新がかなり遅くなってしまいました。
そんな中、今日でこの作品を投稿してから二年です。
かなりゆっくりな更新ですが、今年中には完結させたいと思っています。
これからも読んで頂けたら幸いです。
よろしくお願いします。




