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木漏れ日の下で婚約破棄を希う  作者: 天満月 六花


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33/41

―崩壊の足音―


 その報告は突然だった。


「ディオン、大変な事が起きた!」


 慌ただしく研究室の扉を開いたのは輝くような明るい金髪を持ち、金に青が混じる瞳を持つエルヴィス第三王子殿下だった。

 そのただならぬ様子に眉を寄せる。


「エルヴィス殿下、どうされたんですか?」


 少し幼さが残るかんばせに、気遣わしげな表情が浮かぶ。

 俺は嫌な予感がして顔をこわばらせた。


「ああ……。……落ち着いて、聞いてくれ」


「……はい」


 緊張を走らせながら頷くと、エルヴィス殿下は大きく息を吸った。


「今トルメリア伯爵令嬢に投与している治験魔法薬……それを中断するように申請が出された」


「…………は?」


 思わず出してしまった声は不敬もはなはだしかったが、エルヴィス殿下も何も気にせず焦ったように続けた。


「オズウェル兄上だ……!ディオンが自分になびかなかったからって、強硬策に出たんだ!」


 エルヴィス殿下が机に拳を叩きつけた。それでやっと、動いていなかった脳が動き出す。


「今の魔法薬が……投与できなく、なる……?」


 動き出した脳がすぐさま出した結論に、顔から血の気が引いた。


「今はまだ申請中なだけだが……その書類を王子権限で少しだけ読ませてもらった。あの魔法薬の危険性を問題視した内容だった。……正直、くつがえすのは難しい……」


「危険性……ですか……」


 唇を噛み締める。


 その危険性には、心当たりがある。

 けれどフェリクス医療薬師長が奏上そうじょうした治験の申請書は陛下と王太子殿下も確認し、治験の許可もきちんと降りていた。

 それに危険性を低める為に対策もしている。


 エルヴィス殿下は声を低めた。


「あれは魔力を大量に放出する。そこを突かれたんだ」


「でもフィアは魔力を大量に放出しないといけないんです!」


 殿下の言葉に被せるように返した。


 わかっている。エルヴィス殿下に言っても仕方のないことだ。一緒に魔術式を開発してくれたエルヴィス殿下はきちんと理由もそうなった経緯も知っている。


「それはわかっている!でも大勢に使用を促す場合、あれでは生命の危険がある……。……正直、治験の許可が降りたのが奇跡だったんだ……」


「使用対象者によって魔力放出量を変える術式を組み込むべきだったとはわかっています!けれどそんな時間はありませんでした!あれには数年かかると……!」


「ああ、私も急いだが……今の症例数も少なくてどれぐらいを基準にすればいいのかわからない。症例数が少なすぎるんだ……」


 苦しそうに顔を歪める殿下に、俺は意識して息を長く吐く。今俺は、エルヴィス殿下に八つ当たりをしているだけになっている。

 なるべく心を落ち着けようと絞り出すように言葉を出す。


「……今治験に参加しているのは二人しかいません。フィアとフェリクス医療薬師長の患者と……。その二人にそれぞれ合わせた魔法薬であっても駄目なんですか?恐らく治験の許可が降りたのも二人に合わせたものだったからだと……」


 魔法薬を投与しなければいけない程重度の症状の患者は今のところ二人しかいないのだ。

 フィーリアとフェリクス医療薬師長が担当されている患者だけである。

 俺はその患者に会った事はない。最低限の医療情報は共有されているが、基本フェリクス様しかその患者に関する事はたずさわらない。

 フェリクス医療薬師長が担当している事から考えてもかなり高位の身分の方か……貴族家の後継の方かもしれない。後継であるなら家の衰退に関する情報にあたる為、徹底的に隠すのは有り得る。


 そして二人だけだからこそ、それぞれの症状に合わせた魔法薬を作れた。


 殿下は首を横に振り、苦々しい声を出した。


「恐らくオズウェル兄上も長く中止にするつもりはない。治験に許可を出したのは陛下と王太子であるアデルバート兄上だ。今二人は友好国に外遊中であるから……その間だけにするつもりだと考えている。二人が帰ってくる前に取り下げる気だ。とがめられても危険性を指摘しただけで……説明に納得したと言われれば罰される事もないだろう……」


 エルヴィス殿下の拳には筋が浮き上がっている。殿下もこのような事が起こるとは考えていなかったのだろう。


 それに……その『説明』は……どのくらい聞かせれば『納得』されるのか。


 魔法薬の治験がオズウェル第二王子殿下の心にかかっている事実に、歯を強く食い縛った。


「……私も父上と兄上が宰相補佐として外遊に参加中です。父上に何かあれば言えと言われていましたが……今は連絡も安易にはできません……」


 連絡手段はある。けれど友好国にいるのだ。そう簡単に連絡できない。

 魔法ですぐに連絡がとれる手段はあるが、秘匿性はない。友好国ではあるが他国だ。内容が筒抜けになると考えていた方がいいだろう。


 そしてこの件はオズウェル第二王子殿下の行動に関する報告になる。そんな内容を他国に知られる訳にはいかない。国王陛下や父……様々な方が守っているこの国の不利になる。

 父に連絡する時の暗号用の符号はあるが、このような内容を詳しくは伝えられない。それにやはりこの国の王子殿下に関する事、となると暗号でさえも送る事が躊躇ためらわれる。


 秘匿連絡用の魔道具もあるが、今回は父や兄は持っていっていない。

 今、国王陛下や王太子殿下、父達が訪れている友好国とは同盟を結ぼうと協議を重ねているところだ。だからだろう、信頼している事を示す為に我が国から持ち込む秘匿連絡用の魔道具も最低限にすると父が言っていた。


 父はオズウェル第二王子殿下の事を気にしていたが、国王陛下や王太子殿下という方々を王太子補佐として支えている方でもある。その二人の意向を無視するように、国王陛下と王太子殿下がいない間に動くとは思わなかったのだろう。


 そう、オズウェル第二王子殿下が動くとしたら……外遊から陛下達が帰ってからだと考えていた。

 ……なぜならば、陛下や王太子殿下の意向を聞かずに動くということは……『王太子補佐』という役目からは逸脱いつだつしているからだ。

 …………下手を打てば叛意はんいありと思われても仕方がない行動を……今のオズウェル第二王子殿下はしている。


 拳を作って強く握り締める。爪が皮膚に食い込みそうになったが、フィーリアの顔を思い出してなんとかとどめる。


 怪我をすればフィアに心配をかける。治癒魔法で治せばフィアに渡す魔力が減る……だから、どれだけ苦しくても自分を傷つける訳にはいかない。


「今は出ているようだが、私がフェリクスにも伝えておく。こんな内容は第三王子である私でないと言えないからな。……フェリクスはきっと、抗議すると言うだろうが……それでも数日生産を止められる可能性はある」


「数日……!?」


 エルヴィス殿下の言葉に目を剥く。


 魔法薬は……魔力の保持が難しい為、作り置きはあまり出来ない。魔石を使った魔力を外に流れ出さないようにする箱型の魔道具を使っても、もって三日だ。


 ……それに本当に数日で済むのだろうか。

 オズウェル第二王子殿下が『納得しない』と言えば……日数が増えるのは想像にかたくない。


 息が浅くなっていく。


 エルヴィス殿下は拳を解いて眉間をほぐす。


「……私はこれから宰相にも相談してくる。……けれど……今は陛下も王太子もいない状況だ。宰相も忙しい中、どれだけ早く動いてもらえるかはわからない。それに……危険性の指摘だ。説明して納得してもらう以外……方法はないだろう。その説明が……どれだけかかるかに……なってしまう可能性は高い」


「……」


 ……やはり、オズウェル第二王子殿下の心次第なのだ。


 世界が歪んでいく。頭の中でどれくらいの魔法薬がいくつあれば何日持つのかを必死に計算する。


「ディオン、今の内になるべく作っておくように指示は出した。魔法薬の期限内で、にはなるが……」


「はい……ありがとうございます」


 エルヴィス殿下の言葉に礼を伝えるが、弱々しい声になってしまった。

 それでも……期限は三日だ。多くは置いておけない。


 殿下は眉を寄せながら真剣な目をした。


「……止まっても……数日にする。その間は持たせるように薬を生産しておく。だから…………無茶はするな」


 それがエルヴィス殿下の優しさだとはわかっていた。だが、最悪の想像が止まらない。


 最近のフィーリアは投与する魔法薬が増えてきていた。

 ……それは以前、体内器官へ魔力供給を促す薬を使った時と同じように……フィーリアの体が魔法薬に慣れてきているのだ。

 だから……いつ、以前のように重い発作が起きてもおかしくない。


 考えるだけで、焦りが頭の中を満たす。

 エルヴィス殿下の前だというのに拳を思い切り机に打ちつけてしまった。打ちつけた拳の痺れる痛みが、脳に走る。


 俺は湧き上がった感情のまま声を出した。


「わかっています……!ですが!フィアの症状は重いんです!いつまた発作が起きるか……!発作が起きれば、あの薬を投与して抑えなければいけません!そうすれば、普段通りの魔法薬の量では足りなくなります!もし……足りなくなったら……フィアは……!!」


 ――そうなれば………フィアが……!!……フィア……が…………!


 俺はずっとフィアを喪いたくなくて、その為に生きてきたんだ。

 なのに……どうしてこんな事になっている。


 エルヴィス殿下は俺を咎める事なく、冷静な声で俺に言った。


「……ああ……。…………とりあえず宰相にすぐ話をしてくる」


 その言葉に、父の言葉を思い出す。宰相には父も伝えてくれているはずだ。

 ……きっと、早めには……動いてくれる。


 息を大きく吸って、吐く。

 焦りしかない心を必死に落ち着かせた。


「……はい……お願いします……。取り乱してしまい、申し訳ありません」


 エルヴィス殿下に頭を下げる。


 殿下の前だというのに取り乱しすぎた。

 反省していると、エルヴィス殿下は首を軽く振った。


「いや、大切な婚約者の事だ。わかっている」


「……ありがとう、ございます……」


 俺の周りには、助けてくれる人達が多い。

 それがとても有難くて頼もしい。


 ……なのに。


 頭の中の不安も焦りも……少しも薄れてはくれなかった。



読んで頂きありがとうございます。

また更新が遅くなってしまい申し訳ないです。

これからもよろしくお願いします。


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