―壊された幸せ―
いつからだっただろうか。
フィーリアの明るい若葉色の瞳に影が落ちるようになったのは。
自分がいつかいなくなることを受け入れなければ、と思っているような目。
そのフィーリアの眼差しに俺は自分の不甲斐なさを責めた。
だってフィーリアがその目をするようになったのは、俺がフィーリアの病を治す方法を見つけられていないからだ。
フィーリアの病の治療法は今までずっと見つかっていなかった。そんな中で俺を信じて欲しいなんて言える訳がない。
フィーリアの不安はどれ程のものなのか想像もできなかった。長くは生きられないと言われ、でも俺が助けると意気込んでいる。
きっと優しいフィーリアの事だから、もし治療法が見つからなかった時に俺を責めたくはなかったのだろう。それ程途方もないことだった。
俺がフィーリアに信じてもらえるのは、治療法を見つけた時だと思っていた。
それでも生きることを諦めて欲しくなくて、俺はずっと……必ず治療法を見つけてみせるなんて、安っぽい受け合いの言葉を紡いでいた。
フィーリアがいつかいなくなってしまうのが怖かった。
想像以上に早いフィーリアの病の進行に、部屋の机に拳を思い切り打ちつけたのは数え切れない程だ。
だが悔やんでいるだけではフィーリアの病は治せない。俺は歯を食い縛りながら研究を続けた。
そんな姿はフィーリアには見せられなかった。だってフィーリアは俺以上の不安に苛まれているはずだ。
その不安をおくびにも出さないフィーリアに、俺ができることは笑って元気でいることだった。
フィーリアは自分の体調以上に俺の様子を気にしていた。俺がふらふらになっていた出来事はフィーリアの中に色濃く残ってしまったのだ。
俺の笑顔を見ると安心したように笑って、夜更かしをすると「ディー?」と怖い笑顔で詰め寄られる。
俺はフィーリアが気にするから元気でいられた。フィーリアが日々を楽しく過ごしたいと思っていたから、俺も日々を楽しく過ごせた。
フィーリアが、俺の全てだった。
……あの日。
俺がフィーリアの病の症状を軽くする魔法薬ができた事を報告した、あの日。
フィーリアは堪えきれなかったように涙を流した。
幼い頃以来見せていなかった、フィーリアの不安。フィーリアがずっと見ないようにしていた、未来への希望。
そして……俺を信じたいと泣いた。
フィーリアのその言葉がどれほど嬉しかったか。
本当はずっと俺を信じたかったはずなのに、不安から予防線を張っていたフィーリアが、その予防線を越えてくれた。
俺の傍にずっといたいと、生きたいと口に出してくれたフィーリアに、俺の心は喜びに震えた。
病の寛解も見えてきて、何もかも順調だった。
とても幸せで全てを叶えてみせると誓った。
けれど、その幸せは壊された。
今日でこの作品を投稿してから一年経ちました。
いつも読んでくださりありがとうございます。
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