―決意―
目が覚めるとベッドの上だった。しかも隣にフィーリアがいる。
フィーリアも泣きつかれて眠ってしまったらしい。
思いっ切り泣いたことで赤く腫れている目元を申し訳なくてそっと撫でた。
フィーリアの小さい寝息が聞こえる。
――フィアはちゃんと、生きてる……。
そのことに心の底から安心する。フィーリアの綺麗な蜂蜜色の髪が少しぼやけて見えた。
目元を拭いながら起き上がると、部屋の中には父、母、そしてフィーリアの父親であるダートン様がいた。
「父様、母様、それにダートン様。心配をかけました。ごめんなさい」
ベッドから降り、頭を下げて謝る。
フィーリアの涙で自分の無謀がどれだけ周りの人に心配をかけていたのか思い知っていた。
父はひとつ息を吐いた。
「わかればいい。これに懲りたら今回のような無茶はやめるんだ」
それは安心したような声色だった。
「そうよ、ディオン。流石にやり過ぎよ。正直心配で堪らなかったわ。それに、こんなにもフィーリアちゃんを泣かして」
フィーリアを見る母に倣ってまたフィーリアを見る。目元も赤く泣き疲れて寝てしまっている。
フィーリアがそうなったのは心配をかけてしまった自分のせいだ。
まだ小さな自分の手を強く握り締めた。
「ごめんなさい、母様。フィアにも、心配をかけてしまって……ぼくが悪かったです。ダートン様もごめんなさい」
フィーリアの父であるダートン様にもしっかり謝る。
「いいんだよ。ディオンくんもわかってくれたようだしね。私にとってもディオンくんは息子のようなものだからね。無茶はしないで欲しい」
優しいダートン様の笑みに目が潤んだ。
「はい、ありがとうございます」
潤んだ目を隠すように頭を下げる。
そんな俺にダートン様は優しい声で続けた。
「それにディオンくん、フィーリアのために色々と調べてくれたんだろう?嬉しいよ」
「いえ、ぼくではまだわからないことが多すぎることしか、わかりませんでした」
ダートン様の言葉には首を振る。
わからなかったことが悔しくて、情けない。
「それはそうだろう。魔力循環不全漏出症は研究が進んでいない」
父が当然のように言った。やはり父も調べていたのだろう。
深呼吸をしてから父とダートン様を見据え、口を開く。
「父様、ダートン様。ぼくは研究が進んでいないのなら、ぼくが研究を進めていきたいです。まずはフィーリアの症状を書き留めていってもいいでしょうか?その後はぼくの知識が追い付いた時にフィーリアの病を治すためにも魔力循環不全漏出症の研究をしたいと思っています」
覚悟を決めた目で二人を見つめると、二人は難しい顔をした。
「ディオン、お前は……それでいいのか?」
父からの問いに力強く頷く。俺はフィーリアを何をしてでも助けたい。
ダートン様はいつもの優しげな目を厳しくして俺を見つめた。
「ディオンくん、それは厳しい道だよ。正直言って、治す方法が見つからない可能性の方が高いだろう」
ダートン様の言葉に息を呑む。
父はダートン様を痛まし気な顔で見た。
「ダートン……。……だが、その通りだ。お前はそうなった時に耐えられるのか?」
治す方法が見つからなかった時……それは、フィーリアがいなくなってしまうということと同じだ。
考えたくないけれど、考えなければならない問いなのだろう。
想像したくないけれど目を閉じて必死で想像してみる。けれど血の気が引いて、いくら考えても自分が耐えられる気はしない。
俺はゆっくりと目を開いた。
「……正直に言えば、耐えられる気は……しません」
俺の言葉に父とダートン様は眉をひそめた。
いつか信じられないくらいに後悔してしまうとしても……それでも、自分は絶対にフィーリアを失いたくない。
だから父とダートン様を説得する為に決意を秘めた眼差しを向けた。
「それでも……ぼくは何もしないまま一日一日を過ごしたくありません。父様やダートン様だって、魔力循環不全漏出症について調べている。それはどうにかしたかったからでしょう?少しでも可能性があるのなら、ぼくはその可能性を探したい。小さな可能性でもあるのなら、それを掴み取りたい。フィアを、何もしないまま失いたくないんです。ぼくは今、フィアを助けるために動かないことが、何よりも耐えられないんです」
自分の言葉に父とダートン様は一度目を閉じた。母も悩ましげに目を伏せている。
先に口を開いたのはダートン様だった。
ゆっくりと目を開き、7歳の自分の前に膝まづいて目を合わせてくれた。
「そうか……そうだね。うん、わかったよ、ディオンくん。私からもお願いする。フィーリアの症状を書き留めて欲しい。なんでも協力するよ」
そのダートン様の言葉に、息が詰まった。
どうなるかわからない、無茶な願いだと幼い自分でもわかってはいた。
だから子供である自分の言葉を信じて、お願いしてもらえるとまでは思っていなかったのだ。
自然と滲んだ涙を拭いながら、今度は父の方を見る。
自分の父からの許しは絶対にいるはずだ。
父は俺の様子に苦く笑っていた。
「ダートンがそう言うなら、私からは何も言うことはない。全面的に協力しよう。何かいるものや私でやれることがあるのなら言いなさい」
「私にもよ、ディオン。ディオンの為にも、フィーリアちゃんの為にも、私だってなにかしたいわ。遠慮なく頼りなさい」
父からも母からも温かい言葉を掛けられて頬が緩んだ。
「はい……ありがとう、ございます」
三人に心の底からお礼を言って、ベッドの上で健やかに眠っているフィーリアを見る。
その寝顔を見ながら、絶対にフィーリアを救ってみせると決意した。
部屋の窓から覗いたフィーリアの瞳を思わせる木々の若葉が、柔らかい風によって揺れていた。
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