―ディオンの理由―
7歳の時、フィーリアが早くに死んでしまうかもしれないと聞いてどれだけ恐ろしくなったか。だから、縛り付けてしまいたくて婚約者になりたかった。
そうすれば生きていてくれるんじゃないかと子供心に思ったものだ。でもそんなのは今思うと気休めにもならないただの幼稚な願いだ。
そんな願いの中にも現実的に見る部分があったのだろう。
話し合いから帰ったあとは父や母、祖父母にも頼んで色んな本を読んだ。何かをしていないとフィーリアがいなくなってしまうという現実の重みに潰されそうだった。
毎日本を読んで、疲れて寝る。わからないところは誰かに聞きに行った。
論文まで辞書片手に読み始めると、侯爵家付きの医師が教えてくれるようになった。
それでも満足できなかった。
どうすればフィーリアがいなくならないのかいくら調べてもわからなかった。
「……お前がそれほどフィーリアちゃんの婚約者になりたいのはわかったがほどほどにしろ。倒れたらフィーリアちゃんを心配させるぞ」
心配した父からの言葉に幼い自分は否定の言葉を出した。
「ぼくはフィアの婚約者になりたいけれど、これはフィアを助けたいからです。だからぼくがフィアを助けるのを夢物語ではないと父上が判断した時にフィアの婚約者にしてください。ぼくはフィアを助けるために婚約者になるんです」
まだフィーリアを助ける方法が何もわかっていない自分の努力はまだまだ足りない。なのに、倒れるなんてそんな訳がない。
あの時はフィーリアを助ける事ができないのは頑張れてもいない証拠だから、自分が無理をしている訳がないんだと……そんな考えでいた。
今思うと幼い自分はかなり無理をしていたのに、それに気づこうとはしなかった。
「ディオン……お前の決意はわかった。だが、お前も私の子だ。心配させろ。今のままでは体を壊す」
「そうよ、ディオン。お願いだから、休んで」
その時の父と母の心配そうな顔は今になってもよく覚えている。
「……わかり、ました」
両親のそんな顔を見ても、幼い自分は納得しないまま頷いた。
何かをしていないと不安だった。
フィーリアが消えてしまうんじゃないかと何度も思って、休もうとした時に自分の前から消えてしまうフィーリアを想像して目が冴えた。そうしてまた本や論文を読み漁った。
理解できるまで何度も何度も。
そうしていく内に気づく。フィーリアの病はほとんど研究が進んでいないことに。
体が弱い、ただそれだけで片づけられていることが多いようだった。
そう、今まではフィーリアのような命に関わる重篤な病ではなかったのだ。
症例も近年ではフィーリアの母親しかいないようだった。ダートン様も様々な医者にみせていたようだったが、思ったような結果にはなっていなかった。
そのうちに、フィーリアの母親は体の弱さから風邪を拗らせて亡くなってしまった。
もういなくなったフィーリアの母親の事を考えてしまって血の気が引いた。あんなにフィーリアを大切にしていたのに、フィーリアがどれだけ泣いても、もうフィーリアの母親は姿を見せることはなかった。
二度と会えない。それが……『死』というものだ。
――フィアがいなくなるなんて、絶対に嫌だ。
だからフィーリアを助ける方法を見つけないといけない。
見つけるまでは自分は眠らなくても当然だとそう思っていた。
本や論文を読んで、理解しているかを確認してどうすればフィーリアを助けられるか考える。そうしている途中に気絶したように眠ってしまって自分を責めた。
何日もそうしていた時、突然フィーリアがダートン様に連れられてきた。
俺は寝不足から覚束ない足取りでフィーリアの前に立った。フィーリアに会えるのは嬉しいけれど、まだ助けられる方法を見つけていなかったから申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それでもフィーリアには楽しく過ごして欲しいから、笑ってないといけない。
そう思って笑おうとした途端、フィーリアは顔を崩して泣き出した。
「ディーまでいなくなっちゃったらやだーーー!!!」
大声で泣き叫ぶフィーリアに、やっと自分がどれだけ心配をかける無謀をしていたのかわからされた。
思えば寝不足で足元がふらふらしていて、鏡で見た顔もいつもとは違って暗く感じた。それをフィーリアが気づかないはずがないのに、自分はそれを気にもしていなかった。
「ごめん。ごめん、フィア。ぼくはいなくならないよ。ちゃんと元気でいるから。泣かないで、フィア。ごめん、ごめんね」
何度そう言ってもフィーリアは泣き止んでくれなかった。
それだけフィアを不安にさせてしまったという事実は、自分自身が元気でいる事の大切さを幼い自分に教えてくれた。
フィーリアを助けるなら、俺が元気でいないとできるものもできなくなる。
父や母にも心配をかけて、フィーリアを泣かせる。俺にはまだ知らないことは多い。でも、フィーリアに、父や母に心配をかけるほどやり過ぎではみんなが元気でいられなくなる。
自分がフィーリアやみんなを大切に思っているように、自分もそう思われているのだから。
そんな当たり前の事をフィーリアが気づかせてくれた。
フィーリアがずっと泣いていると、フィーリアにつられるように自分にも涙が溢れてきた。
ずっと不安だった。フィアがいなくなる想像をしてしまって、自分がそうさせないと意気込んでいたのにそれ以上に不安だった。
フィーリアを抱き締めながら一緒に泣いた。ずっと張りつめていた糸を、フィーリアが切ってくれた。
思いっきり泣くとそれまでの疲れも相まって、すぐに眠りに落ちた。
更新が遅くなって申し訳ありません。
先週に二話更新すると言ってたのに更新できず、申し訳ないです。
少し忙しく更新できませんでした。
草案はできておりますので、明日もう一話更新します。
これからも読んで頂けると嬉しいです。




