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木漏れ日の下で婚約破棄を希う  作者: 天満月 六花


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補い合う二人


 夏の暑さを纏った風が吹き抜ける外から、私とディオンは戻って来た。

 抱えてくれていたのを二人掛けのソファーにゆっくりと降ろしてくれた。


「フィア、体調はどう?」


 ディオンは私の隣に座りながらそう聞いてくれるので、微笑んで答える。


「ええ、とてもいいわ。ディーのお陰よ」


 今は薬の大きな副作用も起きていない。先程目眩を起こしてしまったけれど、あれくらいはいつもの事だ。


 私の返しにディオンは柔らかく微笑んだ。


「なら安心だ。でも製法が特殊だから、あまり多く作れないのが難点だな……。俺も作れるようにって頑張っているけれど……なかなか……」


 そう言ってディオンは顔を歪める。今の所作れるのが数人しかいないらしい。

 魔法薬自体もあまり多く生産されているものではないし、それでいて私が使っている薬は魔法を籠めるのが更に難しいらしい。


 魔法薬は週に数回使っている。ディオンやカーティス先生に、体調や魔力の調子を診てもらいながら使っているのだ。

 今はそれで症状を緩和できている。これから多くなるかもしれないとの事だが、先に生産体制をディオンは整えたいのだろう。


 今使っている薬の術式を思い出しながら描いてみる。


「えーと、今の術式は……こう、よね……?」


 発動まではしなかった術式を、ディオンは遠い目で見ていた。


「……フィア……俺の自尊心を軽く砕かないで……」


 抑揚のないディオンの声に、目を瞬かせる。どうやら躓いているのは術式を魔力で描く事らしい。

 確かに他の複合術式より遥かに複雑で緻密な術式を魔力で描くのは難しいと思う。私もいつもより気を遣って描いている。


「ご……ごめんなさい……」


 思わず肩を竦めて謝ると、ディオンは弱々しく首を振った。


「はは、冗談だよ……フィア……」


 そう力ない声で言ったディオンは私から目を逸らしている。


「嘘ね、ディー……」


 ディオンの嘘をつく時の仕草に半眼を向けると、少し不貞腐れたような顔を返してきた。


「だって……魔法の実技サボってたから苦手なんだ……!」


「ディー……サボっていたっていう自覚はあったのね……」


 よく筆記で満点を取るから魔法の実技はしないと言って王立学院から帰ってきていた。ディオンは魔力渡しをする為と言っていたからサボっているとは思ってなさそうだったけれど、意外にもサボっていたと思っていたらしい。


「魔法は理論だけで大丈夫だと……!まさか魔法薬をフェリクス様が作っていたなんて……!」


 ディオンの事だから魔法理論は完璧なんだろう。悔しそうにしているディオンは後悔していそうだ。

 後悔しているのもきっと私の為だと思うと面映ゆい。


 魔法は実際に使わないとなかなかうまく発動しなかったり、術式を描けなかったりする。

 私が灯火魔法が苦手なように、術式や理論だけではうまくいかない事があるのだ。


「仕方ないわ。ディーはその事を知らなかったもの」


 だからそう助け舟を出すと、ディオンは溜め息を吐きながら頷いた。


「発表する迄は情報漏洩がないようにするからね……。俺がいるのは魔力循環不全漏出症の為の研究室だし……」


 魔法薬はフェリクス様が別で研究していたのだろう。それならばディオンは知らないのは当然である。


「ディーは私の為に実技はせずに魔力を取っておいてくれたものね」


 ディオンの気持ちを軽くしようとそう言うと、ディオンも優しく笑ってくれた。


「ああ……。けどフィアの為になるって知ってたら絶対に魔法も頑張っていたのに……!」


「ふふ、でも私が魔法は得意なんだからいいじゃない。ディーと補い合えるわ」


 拳を握り締めて眉を寄せるディオンは、やはり私の為に後悔していたらしい。その気持ちが嬉しくて笑みを零した。


「ふ……フィアは可愛い事ばかり言うね。……フィアの言う通りだな。俺とフィアで足りない所は補い合ってちょうどいい感じがする」


 ディオンは私の言葉を肯定すると、私の蜂蜜色の髪を梳いて耳に掛ける。


「ん……ディー……」


 少しくすぐったくて声を漏らすと、ディオンは愛しそうに空色の目を細めた。


 ディオンの私への態度は、いつも甘い。


 けれどすぐに難しい顔をしたので首を傾げる。


「でも……俺って……フィアの魔法と比べたらそこまで大した事できていないような……」


「ディーってば何を言っているの……?」


 そんな事を言い出したディオンを軽く睨む。


「フィア……」


 私が睨むとディオンは眉を下げた。


「私がこうやって元気でいられるの、ディーのお陰なのよ?……ディーが頑張ってくれなかったら……私、諦めてたかもしれないもの」


 そう。きっとディオンが私の目の前で頑張ってくれていなかったら、早々に諦めていたかもしれない。

 いつも心の奥底で諦めていた私の未来をずっと信じて切り開こうとしてくれるディオンが居てくれたから、私は諦めずに……将来の夢を考えられるくらい、前を向くことができている。


 ディオンは私の言葉に目を見開いた。


「フィア……」


「だから……私には、ディーがいないと駄目なの」


 私は若葉色の瞳をディオンの空色の瞳と絡めるように覗き込む。少し煌めいた瞳が、柔らかい光を灯す。


「ああ……。……ありがとう、フィア」


 ディオンが私の頬を優しく両手で持ち上げる。


「ディー……」


 小さく名を呼ぶと、ディオンは優しく笑んだ。


 柔らかい感触が私の唇に触れた。


 すぐに離れた感触を目で辿ると、ディオンが口元を緩めて笑った。


「……ふ、真っ赤だ」


 熱くなっている私の頬を親指で撫でながら嬉しそうにするディオンに胸が跳ねる。


 やはりこういう事には慣れそうにない。


「ディーってば……」


 笑っているディオンに頬を膨らませると、ディオンは更に楽しそうに笑った。


 そんな日々がずっと続くと信じて、ディオンがくれた未来に想いを馳せる。


 もう少しで雨が降りそうな黒い雲が、窓の外に現れ始めていた。



更新が遅くなってしまってすみません。

これからも読んで頂けると嬉しいです。


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