ディオンとの話し合い
いつものようにサンルームでディオンを待っていると、門を走って通り抜けてくるディオンが見えた。私に気づくと手を大きく振ってくれる。
普段と変わらない様子に見えるディオンに安堵した。
サンルームの扉が開くと同時に名前を呼ばれる。
「フィア!ただいま!」
「おかえり、ディー」
すぐに私の前まで来たディオンは、そのまま膝をつく。そのいつもとは違う仕草に首を傾げた。
「どうしたの?ディー?」
そう聞くと眉を下げる。申し訳なさそうな顔に少しだけ不安が過った。
「フィア……俺、エルヴィス殿下から今日教えてもらったんだけど……なんか王女殿下と俺との噂が流れているみたいなんだ……」
その言葉に目を見開く。ディオンは噂などに興味がないけれど、仲の良いエルヴィス殿下に教えてもらって知ったようだ。
エルヴィス殿下もディオンに関わる噂なのできっと直接教えたのだろう。
膝をついているディオンは私の手を優しく取ってくれた。
「内容は王女殿下が俺に興味を持っているという内容だ。けれど、俺は王女殿下に自分がしている研究の事を聞かれたから答えただけだ。王女殿下から直接話し掛けられたから目立ってしまったようでね。エルヴィス殿下も王女殿下に噂になっていることを注意しておくと言っていたから……もうないとは、思う」
私の目を見て説明していくディオンに安心する。
「ディー……」
思わず安堵の笑みを漏らすと、ディオンは弱く笑った。
「ごめん。噂なんかになってしまって。俺にはフィアだけだ。どんな事があっても、俺はフィアとしか婚約したくないし、これからずっと一緒に居るのもフィアじゃないと嫌だ」
「ええ、ありがとう、ディー」
はっきりと言うディオンはしっかりと手を握っている。私も応えるように握り返した。
「……フィア……ユーウィス侯爵令嬢から聞いていた?」
憂いを帯びた目でディオンは聞いてくる。それに苦笑交じりに答える。
「ええ……。ちょうど今日手紙が来たの」
ディオンは心配そうに私を見た。
「ごめん、フィア。不安にさせたかい?」
その問いに私は目を泳がせる。
「それは……ディーの事は信じているけれど……相手が王女殿下だもの……。少しだけ……不安になったわ」
正直に話すと、ディオンが両手で優しく私の手を包んで微笑む。
「大丈夫。俺は何をしてでもフィアと婚約してゆくゆくは結婚するって決めているんだ。どんな手を使っても実現してみせるよ」
ディオンの言葉に頬が染まる。婚約しているのだから当たり前なのだけど、はっきりと言葉にされると羞恥心が湧いた。
それにしても今まで私との婚約や病気の治療を根気強く実現させようとしているディオンの言葉にはとても説得力があって、小さく笑ってしまう。
「ふふ、ディーが言うととても説得力があるわね」
「だろう?」
「ええ」
いたずらっぽく笑ったディオンに頷くと、ディオンは私が座っているソファーの隣に座る。
優しく肩を引き寄せて、抱き締めてくれるディオンのたくましくなった胸に体を預けた。
「…………もう一つ言っておくとね、フィア。俺に第二王子殿下であるオズウェル王子殿下の側近の打診があった」
「え?」
ディオンが顔を曇らせて言った言葉に目を瞬かせる。初耳だった。
ディオンは苦く笑いながら話を続ける。
「王立学院卒業後にどうかと言う話だった。名誉な事だけど、俺は研究者としてこの国に尽力したいと断ったんだ。だから魔力変換術式をその証として発表した。研究者として役に立つと示しておかねばならないからね」
「そうだったの……」
ディオンが魔力変換魔法を完成させたのはその為だと納得して……けれど、外野がうるさいと言っていたのも思い出す。
……不敬だけれど本気で思っていそうだった。
「ごめんね、フィア。心配させたくなくて黙ってた」
ディオンは王子殿下の側近にと言われたら、断れないのではと不安になってしまうと考えていたのだろう。
…………だって私の病気を研究してくれているのはディオンとフェリクス様しかいないのだ。
けれど、ディオンがその研究をやめるなんて考えられない。ずっと私の為に、やり続けてきてくれたのだ。
だから私は柔らかく微笑んだ。
「いいえ、大丈夫よ」
私の返事にディオンも柔らかく笑って、頭を優しく撫でてくれる。
そうしてからディオンは顔を少し曇らせて話し始めた。
「……今回の件、本当は少し気になるんだ。エルヴィス殿下から、王女殿下は自分よりも第二王子殿下と仲が良いと聞いたから」
眉を寄せたディオンは何か他に目的がないかを怪しんでいるのだろう。
確かに二つの出来事が近すぎて偶然だと考えるには違和感を覚える。
「……ディーが側近の打診を断った……第二王子殿下と……。確か今は……王太子殿下の補佐をしていらっしゃると……」
私が知っている情報を呟くとディオンは頷く。
「ああ、そうだ。王立学院に居た時の印象は自分にも他人にも厳しい方、という印象だった」
第二王子殿下はディオンの三つ年上だ。だからある程度の様子は知っているのだろう。
「そうなのね……。…………ねえ、私も何かしておいた方がいいかしら?」
ディオンは研究者として力を示した。その婚約者である私は何もしていない。
恐らく病弱な婚約者だと噂がある程度だ。
厳しい方なら私も何かしておいた方がいいのかもしれない。
私の問いにディーは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「…………フィアは……少しするくらいなら……いいけど……あんまりフィアの実力を見せたらなぁ……。……フィアが王家に求められたりしたら俺嫌だよ……」
そう言って抱き締める力を強めたディオンに笑みを零す。
「私だってディーが王家に求められるのは嫌よ?だから二人で有用性を示したらどうかしらって」
ディオンが私の魔法の実力を秘匿したがっているのだから、それを見せたら私もディオンの婚約者として相応しいと思ってもらえるかもしれない。
第二王子殿下と王女殿下が何を考えているのかはわからないけれど、ディオンに興味を持たれていたら婚約者である私にも自然と目が向くだろう。
ディオンは研究者として役に立つ事を示したけれど、私には何もない。それは目立ってしまう気がする。
ディオンは難しい顔をした。
「…………それもあまり良くないかもしれない。二人共とても有用だと示したら……トルメリア家に力が集中し過ぎていると言われる可能性がある」
「ああ、そうね……。難しい問題だわ……」
ディオンに言われてその可能性に気づいたので相槌を打つ。
もし外野からそう言われてしまえば、ディオンとの婚約の事まで言われてしまうかもしれない。
少し落ち込んでいると、ディオンが優しく頭を撫でながら抱き締めてくれる。
「けれど……少しはフィアの存在を示していいかもしれない。何をするか一緒に考えよう」
その言葉にディオンを見上げると、柔らかく微笑んでくれている。
私もディオンとの婚約の維持に力になりたいと思っていたのがわかったのだろう。
だからディオンに満面の笑みで頷いた。
「ええ、わかったわ」
「よろしく、フィア」
「ええ、頑張るわ、ディー」
笑い合うこの空間が心地よくて、手放すことなんてお互いにひとつも考えていなかった。
サンルームに降り注ぐ陽射しが、夏の厳しさを思い出させるように強くなっていた。
更新が一日ずれてしまって申し訳ないです。
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