不安な気持ち
深呼吸をして心を整える。何度も読んだ手紙の文章をまた読んでいく。
「お嬢様、難しい顔をなさっていますよ」
マリーが苦笑しながら紅茶のおかわりを入れてくれる。私は眉を下げた。
「……マリーにも手紙の内容は言ったでしょう?ディーの事は信じているけれど不安なの」
その手紙は私の友人であるマリベル・ユーウィス侯爵令嬢……私はベルと呼んでいる……からの手紙だ。
マリベルとは8歳の頃に父と参加した刺繍の会で出会った。同い年のマリベルは刺繍に興味がなかったけれど、マリベルのお母様に連れてこられていた。
そこで元はお転婆だった私と盛り上がったのだ。そして今でも交流は続いている。
ユーウィス侯爵家は代々騎士を輩出している名門で、マリベルもまた剣術に興味を持った。
そして今は突出した剣術で王立学院に通っている。
私は家での学習なので、入学してからは学院でのディオンの様子をいつも教えてもらっていた。
そんなマリベルからの手紙は私の楽しみの一つだった。いつもはディオンが走って研究室に行っているのを見たとか、学科試験の成績が一位だったけれど魔法実技試験は下の方だったなどマリベルが見た範囲でのディオンの様子を教えてくれた。学年が違うからそこまで多くはないけれど、少しだけ他の人から知れるディオンの様子が嬉しかった。
けれど、今回の手紙に書いてあった事は少し毛色が違った。
「アデライン王女殿下がディーに近づいているなんて……」
手紙にあった内容を呟く。
私の一つ下でディオンよりニつ下のアデライン第一王女殿下は王立学院に通われている。
王族の方も民や貴族との交流の為、警備の整っている王立学院に通われるよう定められている。王族の方は厳しく教育されているので、突出した才能や成績優秀者ばかりの王立学院に入学するのは何の問題もないと聞き及んでいる。
王族の方は幼い頃から婚約者がおられる事が多いけれど、アデライン王女殿下は14歳の今でも決められた婚約者はいらっしゃらない。
何人か婚約者候補がおり、降嫁するのに相応しい情勢を見極められているとまことしやかに噂がされている。
「婚約者候補の方達がいらっしゃるのに……なぜディーに……」
ディーはこの間、魔力変換魔法をエルヴィス第三王子殿下と一緒に発表していた。それから少し周りが騒がしくなったと言って大きく溜め息を吐いていた。
アデライン王女殿下もそれで興味を持ったのだろうか。
「それはわかりかねますが、ディオン様はお嬢様しか見ておられませんから大丈夫です。いくら高貴な方とはいえ、正式に婚約してある二人を引き裂く事など致しませんよ」
「そうよね……。そんな事ありえないわよね……」
「はい」
マリーの言葉に少し落ち着く。ディオンが私を想ってくれている事は疑いようがないけれど、もしアデライン王女殿下から婚約者となるよう打診があったらどうしようと考えてしまった。
けれどそんな事をすれば王家の方が責められるだろう。わざわざ元からいる婚約者候補ではなく、婚約者のいる令息を指定したとなれば悪い噂になるに決まっている。そのような悪い噂が流れれば求心力の低下に繋がるから、不安になるような事ではない……と自分に言い聞かせる。
「それにお嬢様、ディオン様に何回か話し掛ける事が増えただけとマリベル様の手紙にも書いてあったのでは?一応少しだけ噂になっているからお嬢様にお伝えしただけだと念を押されたのでしょう?」
マリーの言葉に沈黙する。先程マリーに話した内容そのままだ。
もう一度深呼吸をする。
そうしてからマリーに苦く笑った。
「そうね……。でも噂にもなるなんて迂闊だと思ってしまったのよ……。何か目的があるのではって……」
今まで学年が違う為に話していなかったディオンとアデライン王女殿下なので、話しただけでも噂になったというのはありえるけれど不安である。
「ディオン様にどのようなお話をされているか聞いてみられては?兄である第三王子殿下と一緒に魔法を発表したディオン様に少し興味を持っただけかもしれません」
その言葉に小さく笑う。マリーの励ましの言葉が嬉しい。
「ふふ、ありがとうマリー。ディーに聞いてみるわ」
マリーは私の返しに優しく目を細めてくれた。
相変わらずディオンは毎日魔力渡しをしてくれている。今日ももう少しすれば走りながら私の元へと来てくれるだろう。
ディオンを思い浮かべるだけで優しく落ち着いていく心に、小さく笑みを零した。
読んでいただきありがとうございます。
活動報告に日曜日には更新すると言っていたのに遅くなってしまってすみません。
これからも読んで頂けると嬉しいです。




