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私とディオン


 トルメリア伯爵家の一人娘の私とユーフィリウム侯爵家の次男であるディオンとの婚約は私が9歳、ディオンが10歳の時に結ばれた。


 ディオンと初めて会ったのは私が3歳ぐらいの時。父の友人であるディオンのお父様、ルディウス様が私の遊び相手として歳が近かったディオンを連れてきてくれたのが最初だったらしい。

 お転婆な私はよくディオンを連れ回していたのを覚えている。一つ年上のディオンは小さい私を追いかけて、危険なことはしないように見守りながら一緒に遊んでいたようだ。

 ディオンは私のことを小さい頃から目が離せない子だったよ、と言っていた。


 5歳の時、お母様が亡くなった。ずっと泣いていたのを覚えている。お母様は病弱であまり一緒には遊べなかったけれど、いつも優しい笑顔で私によく本を読んでくれていた。母の腕の中、柔らかい声色で本を読んでくれるのが大好きだった。

 そんな大好きなお母様が亡くなり、お父様が葬儀で忙しくしている時に傍にいてくれたのはディオンだった。ディオンは泣いている私の手をずっと握ってくれていた。それが私を一人にはしないと言っているようで、悲しい心が少しだけ癒やされた。

 ディオンは言葉をかけることもできなかっただけだと、卑下していたけれど。そんなディオンに私は癒やされたのだ。


 母が亡くなってからは気落ちしてお転婆も鳴りを潜めていたけれど、ディオンは相変わらず私の傍で見守ってくれていた。そんなディオンのお陰もあってか、少しずつ母が亡くなったことから立ち直りはじめた頃、6歳の時に私は初めて発作を起こした。そこで私の病が発覚した。


 大気中に漂う魔素を取り込み、身体の中で魔力に変換する。その魔力を体内に循環させ、様々な器官に巡らせて私達の身体は生命を維持している。

 魔力が何らかの理由で体内にうまく循環せず、体外に放出してしまう。魔力循環不全漏出症。それが私の病だ。

 母が病弱だったのも、この病の症状があったからだという。小さい頃はとても元気でお転婆だったため、母と同じ病であるとは思われていなかった。だが、小さいから体内に巡らせる必要魔力が少なかったため、元気でいられただけだった。大きくなるにつれ魔力は足りなくなっていたが、母が亡くなり気落ちして前のように遊び回らなくなり、体力が異常に落ちていることにも、必要な魔力が足りずに色んな器官が弱っているのにも気づかなかった。そして色んな器官が弱った結果、魔力を大量に放出し、その魔力が身体にダメージを与える発作という形であらわれた。でも例え気づいていても、どうしようもなかっただろう。

 今もまだ、この病は原因不明の不治の病なのだから。


 魔力循環不全漏出症についてはまだ分かっていないことが多いが、発作まで起こるのは珍しいらしい。母も色んな器官は弱っていたが、発作は起きていなかった。

 そのことから私の病状は重いと診断された。発作が起きると一気に放出された魔力により身体にまでダメージを与えてしまう。そのダメージを回復させても、確実に弱っていく。成長するごとに身体に必要な魔力は増えていく。でも体内を巡る魔力は6歳の頃でさえ足りない程だ。それに伴い、きっと発作も多くなる。

 だから、私は身体が成長しきるまで……20歳まで生きられるか分からないと言われた。


 幼い私には詳しいことは分からなかった。でも、お父様がとても悲しんでいて、屋敷のみんなも悲しんでいて。みんな私の前では気丈に振る舞っていたが、お母様が亡くなった時と同じくらい落ち込んで、時々泣いているのを目撃していた。だからきっと、私はお母様と同じところに大きくならないうちに行ってしまうのかもしれない、そうやってお医者様の話を理解した。


 理解して思ったのは、みんなに会えなくなるのが悲しいということ。お母様には会えるのかもと思いもしたけれど、それも分からない。そんなのは嫌。そうだ、ディオンにも会えなくなるかもしれない。ディオンにも誰にも会えなくなるのは嫌。そう考えてしまって、私は部屋で泣いた。暫くするとお父様が来て、私を抱き締めてくれる。それでも涙は止まらなくて、ただただ悲しくて、お父様に抱き着いて泣いた。

 そんな時、ルディウス様がディオンを連れてやってきた。その日はルディウス様の奥様でもあるアイリス様も来ていた。アイリス様は泣いていた私を見ると、頭を撫でて抱き締めてくれた。ルディウス様も私の頭を撫でてくれる。ディオンも真似するように一緒に頭を撫でてくれた。なんだかあったかくなって私は更に泣いた。


 涙も落ち着いた頃、お父様とルディウス様は大事な話があるようで部屋を出て行った。私は目を腫らしたままアイリス様とディオンの間に座っていた。二人の体温があたたかくて私はそのまま眠りに落ちた。繋いでいてくれた手から優しい気持ちが入ってきて、お医者様の話を聞いてから初めてちゃんと眠れたと思う。


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