願う日々
雪が溶け、様々な花が芽吹く春の始まり。
「フィア、誕生日おめでとう」
私が目を覚まし準備をしてからロビーに行くと、ディオンが小さな花束を持ってそこに居た。
「ディー、ありがとう。朝から来てくれたのね」
嬉しくなって笑みが溢れる。
「もちろんさ。今日はフィアの誕生日なんだから、朝から来るに決まっている」
ディーは私の誕生日の日は必ず朝から家に寄ってくれる。なるべく早く私におめでとうと言いたいからだと、以前言っていた。
私に近寄りながら言ったディオンは、小さな花束を私に渡してくれる。
「ふふ。ありがとう、ディー」
小さな花束は私が持ちやすいように、とのディオンの気遣いだ。
それにお父様からやルディウス様にアイリス様、カーティス先生や家庭教師の先生、使用人たちからも持ち寄っていつも花束をもらっているので、屋敷が花で溢れてしまわないように、といった意味もある。
ディオンからもらう小さな花束は、いつも自室の花瓶に飾っている。
「とても良い香りだわ」
「それはよかった。さあ、朝食を一緒に食べよう」
微笑みながら手を差し出してくれたディオンに、私は幸せな気持ちで微笑み返した。
朝食を食べ終えた私達は、晴れて澄み渡っている外に出る。体調がだいぶ良くなっているとはいえ、無理はできる体ではない。それでもディオンの支えてもらいながら、久しぶりに小高い丘の木の下まで歩いた。
「着いたわ、ディー」
ディオンにそう言うと、優しく笑って頭を撫でてくれた。
「ああ、着いたねフィア。寒くはないかい?」
「ふふ、平気よ。今日は暖かい、いい天気だわ」
「そうだね」
ディオンが優しく撫でてくれるのが、大好きだ。
昔は私と同じくらいだったのに、だんだんと大きくなった手は骨張っていてしなやかだ。
「フィア、敷物を敷くから待っていてね」
そう言って髪を梳くと、髪に軽く口づけを落とす。
「もう、ディーは……」
頭を撫でるといつもしている仕草に頬を膨らます。ディオンは悪戯っ子みたいに笑うと、敷物を敷いてくれた。
ディオンに手を取られながら敷物の上に座ると、上から降ってくる木漏れ日に頬が緩んだ。
「やっぱりここ、大好きだわ」
「ああ、俺も好きだよ」
その言葉に微笑みを返すと、ディオンも微笑んでくれる。
ずっと、こんな時が続いてくれるといい。
ディオンからは以前私が発動した魔法の最終調整がそろそろ終わりそうだと言っていた。フェリクス様が研究していた魔法薬も出来上がっていて、今は市場に出す為の治験中らしい。
「フィア」
名を呼ばれてディオンを見ると、木漏れ日の中でディオンの空色の瞳とブルーグレーの髪が煌めいた。
「これ、誕生日プレゼント」
そう言って差し出されたのは、ディオンの髪色のようなブルーグレーのリボンが巻いてある、空色のビロードの箱だ。
ディオンの色のプレゼントに顔が緩む。以前の誕生日プレゼントのリボンが私の瞳の色だったので、次はディオンの色のリボンが欲しいわ、と言ったのを覚えていてくれたのだろう。ビロードまでディオンの色なのも嬉しい。
「ありがとう、ディー。開けてもいい?」
「もちろん」
笑顔で言ってくれたディオンに微笑んでから、リボンを解いていく。
この瞬間の高揚感は、いつも私を幸福な気持ちにしてくれる。
リボンを解き終わり、ビロードの箱を然程抵抗もなく開けた。
そこに収まっていたのは、蜂蜜色と若草色の布で花の形をかたどり、中央には空色の魔石が据えられているブローチだった。
「わあ……とても可愛いわ、ディー」
目を輝かせながらブローチを見る。そこまで大きくなく、大部分は布でできている為とても軽い。
これならいつでも着けていられそうだ。
「喜んでくれてよかった。フィア、着けるから貸してくれる?」
「ええ、頼むわね」
「ああ、リボンの上でいいか?」
「ええ」
ディオンにブローチを渡すと、リボンの上に慎重につけてくれる。今日の青地に金の縁取りのリボンに、とてもよく似合っていた。
プレゼントにつけてくれていたブルーグレーのリボンにもよく合いそう、なんて考えて気づく。
もしかしたらその意図があるのかもしれない。思わず笑みを零す。
「フィア、よく似合っている」
ディオンは私を愛しげな笑みで見つめてくれる。
「ありがとう、ディー。大切にするわね」
ディオンの胸に寄り掛かりながら、見上げて嬉しさに頬を緩めた。ディオンは私を抱き締めながら、優しく額に口づけを落とした。




