誕生日の贈り物
白い雪がちらつくサンルームの外を見ながら、待ちわびる。
そうすると、門が開いたのが見えた。もうすぐディオンがくる。手に持っている箱を握り締めて、サンルームの扉に視線を移した。
足音が聞こえてきて、扉を開くのを見つめて待つ。
すると扉が開き、ディオンが満面の笑みで入ってきた。
「フィア、ただいま!」
「ディー、おかえり」
いつものように挨拶を交わしてから立ち上がると、ディーが早足でこちらに来る。
「フィア、お茶を飲むんじゃないの?」
いつもとは違って立ち上がったからだろう。不思議そうにこちらを見たディオンに柔らかく微笑む。
「ディー、誕生日おめでとう。16歳ね」
言うと同時に手に持っていた箱を差し出す。
ディオンは大きく目を見開いた。
その表情にいつも通りだと思いながら笑みを零した。
ディオンは研究に没頭するあまり誕生日を毎年忘れている。私の誕生日などは決して忘れないのに不思議な話だ。
侯爵家でも朝から言われていると思うが、基本的に深く考え込んでいる事が多くてちゃんと聞いていないとアイリス様が仰っていた。なのにフィーリアちゃんの話にはすぐに反応するのよ、なんて嬉しい話を聞かせてくれた。
毎年私が祝ってディオンはやっと誕生日だと気づくのだ。だから最近は私の所から帰って来てからじゃないと祝わないとも言っていた。
きっと帰ってから盛大に祝われるだろう。
「……もうそんな時期だっけ……?」
眉を寄せながら言ったディオンに呆れた溜め息を吐く。
「ディーったら……。誕生日なんだから時期なんて言わないの」
「ごめん、フィア。今年も贈り物用意してくれたんだね。嬉しいよ」
目を優しく細めながら贈り物の箱を受け取るディオンに、安堵しながら微笑む。
ディオンはそのまま私の手を取りながらゆっくりと椅子に座らせてくれた。
「ありがとう、フィア。フィアからの贈り物は全部俺の宝物だ」
そう言いながら私の髪をディオンは掬い取って口付ける。
この甘い仕草にもだいぶ慣れたけれど、まだ胸が鳴ってしまう。きっといつまでもこの鼓動は収まらないような気がする。
向かいの席にディオンが座ると、マリーが紅茶とお菓子を用意してくれた。いつもより華やかなお菓子はディオンを祝う為だ。
ディオンはそれにもお礼を言うと、待ち切れないように聞いてくる。
「フィア、贈り物を開けてみてもいいか?」
「ええ」
「ありがとう。じゃあ開けるよ」
ディオンはビロードの箱にしてあったリボンを丁寧な手つきで解いていく。リボンを外して綺麗に畳むと、ビロードの箱を開けた。
ディオンは目を瞠って私に視線を向けた。
「フィア、これ……魔石のタイピンと、タイじゃないか……。しかも、タイには刺繍してある」
いつの間にと言った感じで私を見てくるので、笑いを零してしまう。ディオンに気づかれないように刺繍をするのはなかなか大変だった。
ディオンが王立学院に通っている時間帯は私も家庭教師の先生から教わっているので、ディオンが研究室に行っている時間帯ぐらいしか私も空いていなかったのだ。けれど驚かせられたのなら頑張った甲斐があったと思う。
「ふふ、頑張ったのよ」
私の言葉にディオンは顔を綻ばせた。
「嬉しいよ、フィア。頑張ってくれてありがとう。すごく綺麗で細かい刺繍だ。このタイの刺繍、フィアの髪の蜂蜜みたいな色で刺してあるんだね。しかもタイピンはフィアの綺麗な若葉色だ」
そう言ったディオンはタイピンを見て目を瞬かせる。
「フィア……これ、魔力と魔術式が入ってる……。入れてくれたのか?」
ディオンの言葉にゆっくりと頷く。
「ええ。ちゃんと体内魔力から入れたから、その日は体調も良くなったわよ」
小さく笑いながらディオンに答える。
今の所まだ新薬は出来上がっていない。私が魔術式を発動させてから2ヶ月しか経っていないので当たり前だ。
けれど魔法を使っていると体調が安定するので、刺繍を頑張ったり魔術式を入れたりできた。
少しずつ前を向けているように感じられるこの日々が、とても愛しい。
「そうか。ならよかったよ。……ところでフィア」
「なあに?」
優しいディオンの言葉に微笑んで返すと、何故かディオンは遠い目をしていた。
「この魔石の魔術式……フィアが入れたの……?」
「ええ、そうよ。ディーが先生に魔法を使える事を言っていいって言ってくれたでしょ?そうしたら色々な授業が増えたの。魔石に魔術式を刻むのも教えてもらったのよ」
喜びを溢れさせながらディオンに話す。
ディオンは約束通り私が魔法を使える事を公表してくれた。もちろん通常はどのように魔法を使うかをしっかりと教えてもらって、そこから逸脱しないように気をつけている。
「あ、大丈夫よ、ディー。授業でしたのは一般的な魔石用の魔術式を刻んだだけよ。そのタイピンみたいに複合術式を入れるなんて事はしていないわ」
ディオンは私が普通とは違う事をしてしまって誰かから目をつけられないか心配している。
きちんと普通通りに振る舞った事を言って安心してもらわなければいけないと思って言い募った。
「うん……。フィアは魔道具師の才能もあるんだね……。習ったばかりで複合術式刻めちゃうんだ……」
ディオンの苦笑交じりの言葉に、目を瞬かせた。
「魔道具師……」
ディオンは私の呟きに優しく微笑んだ。
「ああ。ここまで繊細な複合術式を刻めるなら、フィアは魔道具師にも向いているよ。フィアが楽しかったなら、やってみてもいいんじゃないか?魔道具師なら討伐に駆り出されるような事はないからね。安心だ」
その言葉に心の奥に光が灯ったように思えた。
相変わらずディオンの私の未来をずっと信じている言葉に、心が暖かくなる。
白い雪が不安を覆い隠すように深々と積もっていくのに、ディオンの優しい言葉で何もかもが暖かく感じられた。




