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木漏れ日の下で婚約破棄を希う  作者: 天満月 六花


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暖かい未来


 難しい複合術式を同時展開させるのは集中力が段違いで、八つなど同時展開できる気がしない。


 あまり長く集中し過ぎると疲れてしまう。少しは体の調子がよくなったとはいっても、蓄積した傷まで治っている訳ではないのだ。


「……できたらどうしようかと思った……」


 ディオンが安堵したように零した言葉に頬を膨らます。


「酷いわ、ディー!」


 私の糾弾にディオンは拳を握り締めた。


「複合術式の複数同時展開なんてできたら、稀代の天才になるんだ!誰かに嗅ぎ付けられたりしたら絶対にフィアを魔術師団に入れられる……!そんなのは絶対に嫌だ……!」


 その言葉に気になった事があった。

 私は今、八つの複合術式を一気に展開させようと躍起になっていた。

 稀代の天才になってしまう複合術式の複数同時展開とは、いくつの術式を展開させるの事を言うのだろう。


 思いついたと同時に術式を描いていく。そして気付いた。


「……ディー」


 ディオンに弱く微笑みかけながら呼ぶ。


「何だ?」


 不思議そうに私を見るディオンに、少し目を逸らしながら告げた。


「二つぐらいならできるのだけど……」


「……え?」


 口を開けたディオンに、描いた複合術式を展開して発動させる。


「ほら」


 それを見たディオンは一瞬虚無の目をした。

 やはり二つでも駄目らしい。


「…………」


 無言で頭を抱えたディオンに申し訳なく思いながら問い掛ける。


「……どうしましょう?」


 ディオンは私に何か変化があったらわかるように、何でも逐一報告してくれと言っていた。だからこれも報告したのだけれど本当に良かったのだろうか。


 ディオンは長く息を吐いた後、私を空色の瞳で真っ直ぐ見つめた。


「……フィア、誰にも言っちゃ駄目だよ。もしもの時の為にダートン様と俺の両親には伝えておくけれど……侯爵家の力で守りきれるか不安になってきたな……」


 眉を寄せるディオンをこれ以上不安にさせないように、頷いておく。


「もちろん誰にも言わないわ。ディーと離れるなんて嫌だもの」


 すぐに頷いた私に、ディオンは安心したようにほほ笑む。


「うん。俺もフィアと離れるなんて、絶対に嫌だよ」


 ディオンの言葉に嬉しくなって笑みを零す。


「ふふふ。……でも流石に八つ同時展開は無理ね……」


 少しだけ悔しい思いを抱きながら呟くと、ディオンに呆れたように溜め息を吐かれた。


「全くフィアは……」


 眉を下げているディオンの前でもう一度術式を展開させようとするが、うまくいかない。

 それは先程ディオンが展開してくれた魔法だ。


「それに……ディーが展開してくれたこの魔法、どうも苦手だわ……」


 眉を寄せながら言った私の言葉に、ディオンが安堵したように笑う。


「フィアって常人離れな事をするのに、なんかムラがあるよね……。簡単なはずの灯火魔法うまくないし……」


 笑いながら言われたその言葉に、口を曲げて反論する。


「ディー、その言い様はないんじゃない?なんか…………苦手なのよ!」


 うまく言葉には言い表せないが苦手なのだ。ディオンは優しく微笑んで私を覗き込む。


「ふふ、フィアにも苦手があっていいねって事だよ」


 いまいち納得がいかなくて眉を寄せる。


「そうかしら……?」


「そうだよ」


 それでもディオンに優しく微笑まれると許してしまう。


 私もディオンの力になりたいけれど、まだ早いのだろうかと考えて思いつく。


「あ、でも……私が七つ同時展開できるようになったら、あと一つはディーが展開してくれるわね!」


 とてもいい解決案を満面の笑みでディオンに提案すると、またも叫ばれる。


「だからそんな事態来てほしくない!あとそんなのできたら稀代の大天才だ!建国神話に出てくる魔法使いだよ!」


 ディオンの話に目を瞬かせた。


「へえー、そうなのね」


 そう相槌を打った私に、ディオンは胡乱な目を向けた。


「……フィアって魔法に関しても習ってるよね……?」


「習っているけれど……魔法に関しては漏らしちゃ駄目だから座学だけよ?先生、私が魔法使える事知らないから使用上の注意とか、こうして使うとかは言わないもの。基本的に色んな魔法の術式と成り立ち、組み立て方や歴史だけね。たぶん使えなくても魔法の開発はできるように教えてくれてるんだと思うわ。とても面白くて魔法の授業は好きよ?」


 今の所普通に魔法が使える事もフェリクス様にしか伝えていないので、家庭教師の先生は知らないのだ。

 でも工夫して教えてくれる授業は楽しい。


「ああ、そうだったね……。……もう少し研究が進んだら、普通の魔法が使える事は公表していいかな……。そうしたら、きっと実践的な授業もできるよ」


 ディオンの言葉に目を輝かせる。


「それは……とても楽しみだわ、ディー!」


 心と声を弾ませながら答えた私に、ディオンは空色の目を優しく細めて頷いてくれた。


 寒くなった気温を感じられない室内は、穏やかな心を表すように暖かかった。


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