前を向く心
全ての魔法が発動すると身体の中の魔力の流れが、なんだか違う。
思わず目を見開いてディオンを見た。
ディオンは不安そうに私を見ている。
「どう?フィア」
私は感動しながらディオンに話す。
「すごい……なんだか、魔力の流れが今までと違うのがわかるわ……。身体も楽……!」
私の言葉にディオンは安堵したように目を細めた。
「そうか。この魔法は体内魔力を排出して、魔力回路を円滑に流すようになっているんだ。更に体内器官への魔力供給を排出した魔力で行う。今までの経過やフィアの報告から仮説を立ててはいたけれど……。やはり魔力が飽和していたんだな」
ディオンの言葉に目を瞬かせて聞く。
「飽和してたのに……器官に魔力がいかなかったの?」
魔力循環不全漏出症は体内器官に魔力が行き渡らない事が原因だ。それなのに魔力が飽和していたなんてあるのだろうか。
「フィアの魔力量が多すぎて魔力回路が詰まっていたんだよ。飽和し過ぎていて、排出の方が優先されていたんだ。フィアは魔力を溜め込みがちで排出しにくい体質なんだと思う。とはいっても……フィアは常人より魔力を排出しているんだけどね……とんでもない魔法の使い方を見るに……。だから……溜め込んでいる魔力に対して排出が追い付いていない、と言った方が正しいかな。魔力回路を円滑に流したいのに、いつまでも溜め込んでいる魔力が排出されないから体内器官にも魔力がいかなかったんだ。だから魔法を使う時も、無意識に体内の魔力を使って減らそうとしていたんだろう。それで一時的に体内魔力が減り魔力回路の詰まりが少し解消されて、きちんと循環されるようになる。そうしたら排出が優先されることもなく、器官に魔力がいって身体も楽になったんだと思う。発作も溜め込み過ぎた魔力を強制排出する為の身体の防衛本能だったんだ。ただ……とんでもない魔力量を一気に排出しようとするから体が逆に傷ついてしまう。……たぶん今でも成長中なんだ、フィアの魔力器官は……。だから年々魔力を排出しなければいけない量が増えて、発作も増えてきていた」
厳しい顔をしながら説明してくれたディオンの手をゆっくりと私から握る。
ディオンも優しく握り返してくれた。
「そうなのね……。けれど……ディーが魔力渡しをしてくれると、私の体調良くなってたわよ?魔力が飽和していたのに更に増やしてよくなったのはどうして?」
更に疑問がわいたので聞くと、ディオンはそれにも答えてくれる。
「魔力渡しは違う人物からの魔力の受け渡しだ。だから体内魔力とは然程交わらず、そのまま器官に行き渡るんだろう。それに俺は体内器官に直接魔力を行き渡らせるようにしていたからね」
「なるほど……」
「この魔法で効果が出れば、魔力循環不全漏出症の寛解も見えてくるかもしれない。けれど今はまだこの魔法も一時的な物だし、フィアの魔力器官が必要以上に魔力を生成している原因を見つけないと根治にはならない」
眉を寄せるディオンの手を優しく撫でる。
私を空色の目で見たディオンに優しく微笑んだ。
「ディー……ありがとう。ディーのお陰でまた外に出れそうよ?この魔法、私の為に考えてくれたんでしょ?」
私がそう聞くと、ディオンは厳しかった顔を緩ませる。
「……ああ。俺だけの手柄じゃないよ。フェリクス様や魔法開発の天才と呼ばれているエルヴィス殿下の協力もあってこそだ」
私と同い年である第三王子のエルヴィス王子殿下は、ディオンと同じく研究者気質らしい。
私の為にディオンがエルヴィス王子殿下に拝謁を願い出たところ、ディオンの研究を詳しく教えて欲しいと寧ろ言われてしまい、それからはよくエルヴィス王子殿下の話が出てくるようになった。
ディオンはいつも研究室に入り浸っているからか大人の方達の話が多く、同世代の話はあまりしていなかったので同世代であるエルヴィス王子殿下の話を聞くのは嬉しい気分になる。
緩んだディオンの笑みを自分の若葉色の瞳で見つめながら告げる。
「それでもディーが……ずっと頑張ってくれてたからだわ」
ディオンは目を伏せながら、私の頬に手を当てた。大きくなったディオンの掌は私の頬を優しく包んだ。
「……ありがとう、フィア。それでも俺はまだ満足していない。この病の根治を目指すよ」
その言葉に私は緩く笑む。
「……うん。ありがとう、ディー」
ディオンの言葉が心強くて、少しだけ目が潤んだ。
それを隠すように、目線を魔法の術式が描かれた紙へと向けた。
「この魔法はどうするの?」
「フェリクス様が研究している魔法薬の中に籠めるんだ。これは複数同時展開で最も効力を発揮するように作られているから。今回はフィアの魔力を大量に使った効果も含まれているけれど、ここから更に効果がありそうな術式を追加したりいらない術式を削ったりするからもっと効果があると思う」
「この八つを複数同時展開……」
今回は次々と展開するだけでも体の調子が良くなったけれど、これら全てを同時展開すればもっと良くなるという事だろう。
ディオンが少し眉を寄せながら問い掛けてくる。
「……フィアって、複合術式の複数同時展開はできないよね……?」
「試したことないわ……」
複合術式を同時展開など試した事がない。
ディオンは珍しく思い切り首を横に振る。
「やめよう、フィア。これ全部複合術式なんだよ!?そんなのやったら更にフィアの天才度が上がってしまう……!!」
苦々しく言うディオンはたぶん私の事が心配なのだ。
「……でも複数同時展開できたら、もしもの時に自力で治せるかもしれないわ」
ディオンは私の肩に優しく手を置きながら叫ぶ。
「そんな恐ろしいもしもの時来てほしくない!それってフィアが魔法をいくら使っても体調が良くなっていない、最悪の事態の時だろう!?」
ディオンは顔を青褪めさせて、その顔は歪んでいる。
それでも、何かできる事があるなら私もできるようになりたい。
だって……私もディオンの隣に、ずっといたいから。
ディオンに向かって穏やかに笑う。
「ほら、ものは試しよ」
ディオンは私の心を受け取ってくれたのか、私の若葉色の瞳を見つめてから仕方ないように微笑んだ。
「フィアは……言い出したら聞かないんだから……」
「ふふふ」
そう言って挑戦し始めてから30分程。
「…………できないわ……!」
悔しい気持ちを私は言葉に出していた。




