魔法の使い方
季節が半分ほど巡った頃、ディオンがある魔法を持ってきた。
今日は応接室の中でディオンと話す。応接室の中は外から見えなくできる魔道具が設置されている。
ディオンが魔法の事で相談がある、との事だったからだ。
ディオンの話では魔法を私の魔力で発動して、発動した時の体の調子を教えてほしいとの話で、私はもちろんすぐに了承した。
「フィア、無理はしていないか?」
ディオンが空色の瞳を心配そうに揺らしている。
それに私は柔く笑った。
「ディーは心配性なんだから。複雑で魔力がいる魔法なんて、今までも使っているわ。一日に何度展開しても平気よ」
自分で作り上げた魔法を発動させると、きちんと洗練されていない為に魔力量が多くいるらしい。以前もディオンにこんな魔法はどうかしら?と提案したら、この魔力量じゃ一般化は無理だよ……と顔を引き攣らせながら言われた。
魔力を使っている感覚の無い私には、いまいち必要な魔力量の概念がないらしい。
魔法を使っていれば体調が良くなると判明した今は、気兼ねする事なく使っている。
流石に私の魔法の使い方については箝口令がしかれている為、父とディオン、マリー、ルディウス様とアイリス様以外には見せないように気をつけているけれど。
私の言葉にディオンは苦笑した。
「……そっか……。本当にフィアの力は秘匿しないと……」
今回の魔法は複合術式で試験段階のものらしく、まだ魔力量の調整もできていないものらしい。
そのせいで内容的にはあっているはずだが発動ができない、という事態に陥っているとの事だ。
魔術師団に頼まなければいけないが、こういった魔法の試しは何ヶ月もの予約待ちだ。
このまま魔力量の調整をしていってもいいのかをできれば早くはっきりさせたいディオンは、侯爵家の者に発動できる人物の心当たりがある、と言って持ち帰ってきたと言っていた。
ただ高貴な方の為に人物の詳細は言えないと伝えたらしい。こういった言い方はその家を継いでいる当主のルディウス様か、隠居されている前当主のディオンのお祖父様にあたると勘違いされるだろう。当主や前当主であれば魔術師団からの勧誘が来ることなどない。貴族家の当主は領地の守護を最優先する事が決められている。
ディオンは恐らくすぐに私の事が思い浮かんだのだろうけれど、私の魔法の使い方はフェリクス様にも秘匿されているからそんな事を言ったのだろう。
私の病状が少し改善された事を研究室の主宰者であるフェリクス様に伝えたのは、私の魔法の使い方を判明させてからだった。
ディオンがいつもとは違って普通の魔力渡しをしながら私が魔法を使うと、なんと私は自分の体内の魔力も少し使っていたらしい。ディオンが渡した自分の魔力も入っていると言って判明した事だ。
その時はせっかく体内魔力を使わない方法を見つけたと思っていたのにと考えて落ち込んだけれど、ディオンはむしろ体内魔力を使った方がいいのかもしれないと言った。
だからフェリクス様には私が普通に魔法を使ったところ体調が改善した、と伝えたのだ。
その後私はディオンと共に来たフェリクス様の前で普通に魔法を使ってみせた。
ただ……その時簡単な灯火魔法を使ったのだけれど、見事に安定していない下手な灯火魔法を発動させてフェリクス様に見せてしまった。
ディオンに私の魔法はすごいと言われていたし、他の簡単な魔法ならすぐに綺麗に発動できていたので大丈夫だと慢心していたのだ。
私は初めて、自分には不得意な魔法があるのだと自覚した。ディオンはその魔法に驚いた後、フェリクス様の後ろで口元を少し震えさせていた。まさか灯火魔法をうまく発動できないとは思っていなかったのだろう。
私がディオンを睨む前に、フェリクス様に体調はどうかと聞かれたのでその質問に答えていって、訂正する機会は与えてもらえなかった。なので今でもフェリクス様の中では、私の使う魔法は下手だと思われている。
ディオンも父も、私の魔法の凄さが王宮に勤めているフェリクス様に伝わらなくて安心したと言っていた。
だから私がこんな風に複雑で魔力量が多く必要な魔法を使えるなど欠片も思われていないのだろう。
少し面白くないけれど、私も魔術師団には入りたくないので仕方ない。
それからは普通に体内魔力を使った魔法の練習もしているけれど、やっぱり周囲の魔力を使った方が魔法を使いやすい。
半年前の事を懐かしんだ後、机に置いてある八つの術式を見ながらディオンに話し掛ける。
「この魔法を順番に展開してみればいいのね?」
「ああ」
ディオンの真剣な目に、微笑んで返した。
「それじゃあ、いくわね……」
目の前にある術式を見ながら、集中して魔力を動かして術式を描いては発動させていく。
そういえば、フェリクス様に見せたあの時は手で術式を描いたのも悪かったのかもしれない。普通はそうすると言われても、私は魔力を直接動かして術式を描く方が楽だ。これも見せては駄目な技術なのだろう。
考えながら次々と発動させて、最後の一つ。
「ん……一つだけ、うまく展開できないわ……」
少し灯火魔法と同じ感じがする。苦手な術式だ。
「ああ、これか。この魔法は俺も展開できるから、俺が発動させるよ」
「ええ。よろしく、ディー」
笑ってディオンにお願いすると、すぐに指で術式を描いていく。ディオンの魔法は細部まで丁寧に描かれていて、私はディオンの魔法を見るのが好きだ。
ディオンはいつも私に魔力渡しをしてくれていたから、魔法を見せてくれるようにお願いした事はなかった。
――やっぱりディーの魔法、綺麗だわ。
描かれていく複雑な術式を、ディオンの真剣な空色の瞳と一緒に眺めた。




