掠れた音
「フィア!」
扉が大きく開いて、常にはない切羽詰まった声で名前を呼ばれる。
ディオンの焦った顔が浮かぶ。ゆっくりと部屋の入り口に目を向けると、走ってこちらに向かってくるディオンがいる。その顔は予想通り焦った表情だ。
ディオンの声に返事をして安心させたいのに、それに返せる元気はなかった。
「フィア……」
ディオンは私が横たわっているベットの傍まで来て膝をつき、切れた息を整えながら私を覗き込むディオンは今にも泣きそうな顔をしている。
「……」
いつものように「ディー」と、名前を呼びたいけれど今は掠れた音しか出せない。
「フィア、返事しなくていいよ。ちゃんと分かってる」
優しく手を握られて、眉を下げたまま微笑むディオン。ディオンの言葉に安心して笑うけれど、口角は少ししか上がらない。
それでもディオンは私の笑顔に気づいたようで、私に笑い返してくれた。
そしてディオンは私の髪を撫でると立ち上がって、部屋に居たお父様に向き直った。
「ダートン様、取り乱してすみません」
ディオンはそう言って頭を下げる。お父様は優しく笑った。
「いいんだ、ディオンくん。ディオンくんがフィーリアの事を大切に想ってくれている証拠だからね」
「ありがとうございます」
ディオンも安心したように笑う。
お父様は私に優しい顔を向けて聞いてくる。
「フィーリア、ディオンくんと今回の発作について話すけれど、大丈夫かい?」
目を一度深く瞑って了承の返事をする。お父様は頷いてくれた。
そうすると、二人共顔を引き締める。
「薬はいつも通りに飲んでいたんだが……少し体調がこの所優れなくてね」
「ええ。俺もそれは注意していました」
「今日も起きたら体調が悪くて、休んでいなさいと言っていたら発作が起きたんだ。カーティス先生は滞っていた魔力が一気に放出されたようだと言っていた。傷ついた体内は治癒してある。だが……」
「……何度も発作が起きれば、傷は蓄積していく……」
「ああ……」
いつもは笑顔の二人が、辛くて難しい顔をしている事が苦しい。
その気持ちが私の顔に出てしまっていたのか、ディオンが私を見てすぐに微笑んだ。少し、無理をしている笑みだ。私を安心させようとしてくれている、優しい微笑み。
「あ、フィア。平気だ。ごめんね。俺はフィアが大事だから、つい難しい顔をしちゃったんだ」
「フィーリア、すまなかったね。今は休んでおきなさい。それで体調が良くなったら、ディオンくんと今回の発作の話をしよう」
お父様はディオンよりは年季の入った優しい微笑みをする。私はお父様の言葉に目を深く瞑って返事をする。
「フィア、また症状を教えて欲しい。治療に必ず役立てるから」
ディオンのその言葉に目を深く瞑って頷いた。
ディオンは優しい笑顔で頷いてくれた。でもいつもとは違う、少しだけ陰りのある笑顔だった。
そんなディオンを見るのが切なくて、私は必死に口角を上げて微笑んだ。その笑みを見た途端、ディオンは泣きそうな顔を浮かべて、最近は見ていなかった下手な笑顔をした。
いつも、私が倒れるとしている、下手な笑顔。
――ディー、自分を責めないで。私は感謝しているの。ちゃんと、外に出れるまでに回復させてくれた事。だから、そんな顔をしないで。
ディオンの空色の瞳が潤んだ。ディオンは一度目を瞑ると、決意を秘めた瞳を私の若葉色の瞳と合わせた。
「フィア、大丈夫だ。俺が、絶対に治療法を見つけてみせる」
下手な笑顔でディオンが、優しく手を握って言ってくれる。
ディオンの言葉に頷きたいのに、頷けなかった。
代わりに、ディオンが握ってくれている手に力を入れた。ディオンが自分を責めないようにと、願いを込めて。
窓から見えた曇った空に、白い雪が舞っている。部屋の中からでは、外の寒さを感じることはできなかった。
読んで頂きありがとうございます。
更新が遅くなり申し訳ございません。
これからは毎週土曜日に更新します。
よろしくお願いします。




